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デンゼル・ワシントン未公開映画「フェンス」ネタバレ感想|家族って何だろう?

デンゼルワシントン主演で監督も務めた「フェンス」が日本では未公開?何故だろう?と疑問に思ったので、観賞してみました。

今作は戯曲を映画化した作品で、観賞しているとそれも納得できるし、確かに日本で公開してもそれほど動員できなかったかも、ということがなんとなく感じられます。

国には異なる文化や言語や習慣があり、そこに生まれ育っていないと理解できないことがたくさんありますよね。

この作品は、1950年代の黒人家族の在り方や人生を主にセリフによって描いているため、日本人には100%理解するのは難しいかも、と感じました。

それでも、家族の在り方や人間関係にどんな時も疑問を感じるのが人ってやつだから、そういう観点で鑑賞すると非常に考えさせられる素晴らしい作品です。

前置きはこのくらいにして、感想を綴ってみたいと思いますが、ネタバレも含まれますことをご了承くださいませね。

作品概略

原題:Fences
製作年:2016年
製作国:アメリカ
キャスト:デンゼル・ワシントン、ヴィオラ・デイヴィス
監督:デンゼル・ワシントン
脚本:オーガスト・ウィルソン

10年にリバイバル上演されたアメリカ劇作家オーガスト・ウィルソンによる、ピューリッツァー賞などを受賞した名作戯曲「フェンス」を映画化した作品。

舞台版で主演したデンゼル・ワシントンが監督も務め、舞台で妻役を演じたヴィオラ・デイヴィスが映画でも妻役ローズを演じ、第89回アカデミー賞で助演女優賞を受賞。

ヴィオラ・デイヴィスは、同じく日本未公開映画「ロスト・マネー/偽りの報酬」にも出演していて、ものすごい存在感と迫力でした。

ざっくりあらすじ

1950年代のアメリカ・ピッツバーグ。アフリカ系アメリカ人の労働者階級の父親トロイは、子どもを育て、妻と平和な家庭を築いていこうとしながら、自分の人生の出来事と折り合いをつけようとする。

トロイ・マクソンはかつて野球選手だったが、人種差別によってメジャーリーガーの夢を絶たれ、清掃局で働き苦しい生活を強いられていた。

ある日、トロイの息子がアメフトのスカウトマンに見出され、大学推薦の話が舞い込んで来るが、トロイは自分の経験からそれを喜ばない。

まだまだ人種差別がひどかった時代のアメリカに生きる、黒人家族の人生や関係を描いている。

感想

本作はほとんどが、家の境界線を仕切る手作りフェンスをコツコツと仕上げているトロイの自宅でのシーン。

冒頭シーンだけで、確かに舞台から映画化された作品らしさみたいな雰囲気を感じます。

最新技術を駆使した映像や、美しいロケ地や、きらびやかな衣装を楽しむ映画ではなく、家族の在り方、それぞれの立場での考え方、思いを伝えることの難しさ、家族の重さ、などをじっくりと味わう作品になっています。

清掃局での仕事を終えたトロイが、友人のボノを伴って帰宅したところから始まりますが、そこにローズが加わり、そして長男のライオンズが訪ねてきて、永遠と家族の会話が繰り広げられます。

画像引用元:IMDb

時代は1950年代。その頃のアメリカを詳しく知っているわけじゃないし、トロイの永遠に続く無意味なおしゃべりと笑えないジョークが多少鬱陶しくもなるけど、それでも見続ける価値のある作品です。

親を選んで生まれることはできない。そして選べない生まれ落ちたときの環境、親は死ぬまで親で、教育という名の束縛を感じる年頃もありつつ、それでも親は子供を責任をもって育てなくちゃならないんです。

だけど、お互いに感謝はしていても、時として家族が重いと感じることもあるし、親を否定したくもなるし、こんな親じゃなかったら、と思うことだってある。

親の方も子供にはこうなってほしい、こうはなってほしくない、という希望や夢を持って育てるわけだけど、子どもが親の思うとおりに育つわけはなく、そこに葛藤や自信の揺らぎなどいろんな思いがあるわけです。

そして夫婦だって、表向きは仲がよさそうでも、元は他人同士だった男女が全く問題なく何十年も一緒にいられるわけはなく、それぞれの考え方の違いが露呈すれば揉める元になるわけで、トロイ夫婦もある大きな問題にぶち当たります。

家族と夫婦のあれやこれやを全部吐き出した作品は、最後の最後にローズの言葉で救われます。

トロイの家族

優秀な野球選手だったけど、メジャーリーグにスカウトされなかったのは自分が黒人だったからだと思っている父親トロイ。

刑務所から出所後に結婚したローズと息子:コーリーと幸せに暮らしていたけど、家族の間の価値観や世代間の考え方の違いなどから次第に不協和音が。

トロイには、前妻との間にラッセル・ホーンズビーが演じるライオンズという、もう一人の音楽を目指す息子がいます。

ラッセル・ホーンズビーは、私が大好きだったドラマ「グリム」や、未公開映画「ヘイト・ユー・ギブ」などに出演。

そしてもうひとりが、第2次世界大戦で負傷し、頭に大きな傷を負ったことで障害を抱えることになってしまったトロイの弟ゲイブ。

ライオンズは、音楽で生計を立てていくことを夢に見ていて、定職についていないことがトロイの不満になっています。

「10ドル貸してくれ」とライオンズがトロイに頼んだとき、トロイは「他人を当てにせず、いい加減自立しろ」と言うんですね。

それに対してライオンズは「俺には音楽が全て、生きがいが欲しい。それによって朝、ベッドから起きる気になる。音楽だけが生きる道、俺の人生を指図しないでくれ。」というわけ。

どう思いますか?

親の立場なら、トロイの言うことはもっともだし、ライオンズが夢を追いかけたい気持ち、生きがいを持って人生を送りたい気持ちもわかります。

トロイは、彼自身がメジャーリーグで野球ができなかった挫折体験を持っているからこそ、夢だけで生きていけない、現実を見ろとライオンズにわかってほしいんですよね。

うんうん。

だけど積極的につぶさなくても・・・

次男のコーリーが、アメフトのスカウトマンに見出され、大学推薦の話が舞い込んだのに、家のことバイト、それからアメフトを全部こなさなくちゃいけないという約束をコーリーが破ったことで、トロイは勝手に部活のコーチに推薦話を断ってしまいます。

今と昔では親子関係、力関係に違いがあるかもしれないけど、それでも相談もなしに子供の将来を握りつぶしていいものか?

勝手に握りつぶしちゃうのは、あまりに親のエゴではないか?

大学に行かせるほどの余裕がないのは見ていてわかる。それでも、スポーツ推薦なら奨学金で行けるだろうし、可能性にかけてみるチャレンジだけでもさせてやってほしかった。

それは母親のローズも私と同じ気持ちで、勝手に断ってきたトロイにやらせてやってほしいとお願いはするものの、その時はそれほど強い態度には出ないけど、心の中に不満がくすぶっていたのは、後になってから分かります。

俺の家、俺の食い物、俺が買った服、それで生活していると子供に言うんだけど、それは当たり前じゃない?

今ならモラハラ。あれ?子供に対して、親のモラハラってあるのかしら?

1950年代、日本は昭和です。日本でもその頃は、男尊女卑の考え方が一般的だっただろうし、頑固おやじってのも存在してましたしね。

俺が食わせてやってるのに文句言うな、とどれだけのオトコが言っていたでしょう。書いているだけでムカついてきます。

ただ、息子には自分の二の舞にならないよう、手に職をつけて地道な人生を歩んでほしいと願っているわけです。それもわからなくはないけど、いい方ってのがありますからね。

怒鳴って言うことを聞かせようってのは、アホのすることです。

もうひとりの子ども

ある時、トロイは浮気相手の妊娠を知らされ、それを妻のローズに打ち明けます。えーーー、言っちゃうんだ?と、ちょっとびっくり。

妻を裏切りたくないとトロイは言うけど、秘密にしていると面倒だから、後からバレたらもっと大事になるから、秘密を抱えていると後ろめたいからなど、それは彼自身の勝手な発想です。

トロイは「彼女といると仕事や家庭の重圧から解放される。彼女の家では笑っていられた。それを諦められない」と言うんだけど、そんなことを妻に行ってのけちゃうなんてズーズーしいにもほどがある。

誰でも重圧はイヤだし、笑っていたいけど、逃げずに戦わなくちゃいけないし、誰かを傷つけずに笑える方法を考えるのが大人ってもんじゃないですか?

まあね、男の浮気の言い訳なんてのは、ほぼ100%バカなことを言ってるだけですけどね。

ふんっ。

あなたに人生掛けた私の思いは?私の人生は?私の気持ちは?と、ローズが泣きながらトロイに訴える場面は、ものすごい迫力とパワーで圧倒されます。

ローズの言葉のひとつひとつに共感できるけど、トロイの言い訳には全く同情の余地はないと感じるのは、私が女だからかしら?

そして、浮気相手は出産とともに亡くなり、生まれた女の子だけが残されるんですね。

ベビーを連れて帰ってきたトロイは、ローズに一緒に育ててもらえないかと頼むわけ。

ローズは、「子供のお母さんにはなるけど、あなたの女房ではない」と。母を亡くしたベビーには全く責任はないわけで、ローズの母性が子供を不憫に思うからこそその子の母になることは決めたけど、決してトロイのことは許さないという硬い決意が感じられます。

コーリーとの決別

一方、次男はバイトから帰ってきて、玄関ポーチの階段に座っている父親の横を通ろうと「通れないからちょっとどいて」といったところ、「オレの家なんだから”失礼”と言ったらどうだ」と言いケンカになるわけ。

次男にしてみれば、その家は障害を持ったおじさんであるデイブの補償金で買ったもの。トロイにオレの家と言われても納得がいかないわけです。

トロイは、17年オレの金で食い、服を買い、生きてきたんだから文句言うなと。そんな言い方をして17歳の少年が従うはずもなく、出ていけ!というトロイの言葉に、コーリーは出て行ってしまいます。

母親に別れも告げず。そんなの辛すぎます。

家族の形

家を出て行ったコーリーがトロイの葬式のため軍服姿で実家に帰ってきます。そこには、大きくなった妹のレイネルが。

コーリーは帰ってきたけど、父親の葬式には出ない、どれだけトロイが自分を縛り付け、大きな影となって常に脅かされていたかとローズに告げます。

そこで、ローズはトロイへの思いやレイネルが家に来た時に決意したこと、思ったことなどをコーリーに話して聞かせるんだけど、そのローズの揺るぎない力強さが滅茶苦茶かっこいいです。

コーリーもローズの話しに耳を傾け、会う機会がなかった母親違いの妹レイネルの存在とで、わだかまりが次第に溶けていきます。

人はいつでも感情が揺れ動く生き物だけど、何か信じられることやモノがあったら、揺れ幅が小さくなったり、揺れても平常心に戻るのが早かったり、揺れることに不安を感じないでいられるのではないかしら。

ローズを演じたヴィオラ・デイヴィスは、この作品でアカデミー賞の助演女優賞を受賞していますが、心から納得できるものすごい存在感のある演技です。

作品の中のローズを観た女性は、きっとエネルギーを分けてもらえるような気がします。

フェンスの意味

タイトルのフェンスは、トロイが材料から買い付けて、手作りのフェンスをコツコツと仕上げていく様子が、家族と同じという意味なのではないか、と感じて鑑賞しました。

フェンスは、木材を切り、土に穴を掘って立てかけ、他の木材と繋げ、それを繰り返して形になっていきます。

家族も最初は、材料になる人間がいて、家庭という小さな組織の中で日々繰り返し過ごしていくことで形になっていくのではないか?ということだろうと思います。

まとめ

デンゼル・ワシントン主演だし、アカデミー賞で作品賞をはじめ4部門でノミネートされたにも関わらず、日本で未公開だった理由は見ているうちにわかってくるけど、とてもいい作品です。

とにかくセリフが多いから字幕を読むのに忙しいし、日本人だと理解が難しい神や悪魔の話、死神との対決の話などが出てきて、やや面倒なところもあるけど、いろんなことを考えさせられる作品でした。

時には家族を重いと感じることもあるし、鬱陶しいと感じることもあります。

それでも繋がっている血の流れを絶つことはできない。だとしたら、自分だけでも相手だけでもなく、双方が努力していい関係を構築していく努力をすることが必要なんだな、と。

息抜きにはならないけど、じっくりひとりで考えてみたい心理の時にはおすすめの作品です。

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