日本では劇場未公開映画「家政婦の秘密」を鑑賞。
映画.comではタイトルが「エメランスの扉」となっていて、原題は「The Door」というベルギーとドイツの合作映画です。
多分、映画ができたときには邦題が「エメランスの扉」と付けられ、DVD発売時に「家政婦の秘密」になったのではないかと思われます。
ただ、映画を観ると「エメランスの扉」の方がよかったんじゃないかなぁと思いましたけど。
確かに主人公は家政婦だし、秘密があるっちゃあるけど、その秘密がストーリーの中心になって展開していくわけではないと思うんですね。
強く感じたのは、他人が聞けば「残酷」「冷たい」「不道徳」とも言われかねないエメランスの絶対的な「死生観」。
個人的には、エメランスの考え方は好きでしたね。
それでは、未公開映画「エメランスの扉/家政婦の秘密」のあらすじと感想を綴ってみたいと思います。ネタバレしておりますことをご了承くださいませね。
Contents
キャスト
家政婦:エメランス
ヘレン・ミレン
ヘレン・ミレンさんは、「ワイルド・スピード アイスブレイク」にも出演されていて、記憶は定かではないのですが、多分ジェイソン・ステイサムのママを演じていたような?
イギリス出身の女優。数々の作品に出演し、2006年にはイギリス王室の舞台裏を描いた「クィーン」でアカデミー主演女優賞を受賞。
今作では、気難しい家政婦:エメランスを演じています。
勤めている屋敷の前の道路を雪の日も、秋の落ち葉の日も、ただひたすら掃き清める行動に、エメランスの心の平静や浄化があるかのようで印象的。
マグダから「うちで手伝ってほしい」とオファーされるものの、「どこで働くかは私が決める」とけんもほろろ。
それでも、マグダの家で働くことを決めたエメランスは、家政婦としての仕事ぶりは一流。誰が来ても家には決して人を入れないという、自分に課したルールに従って生きています。
小説家:マグダ
マルティナ・ゲデック
ドイツ出身の女優。2007年度アカデミー賞最優秀外国語映画賞受賞作品となったドイツ映画『善き人のためのソナタ』に出演していたことが、外国へと活躍の場を広げるきっかけになっています。
元教師で、小説を書いているマグダは、落ち着いて執筆をする時間を取るために、家のことをエメランスに頼むことにします。
家政婦としての仕事は一流のエメランスでしたが、気難しい性格にマグダは若干振り回され気味。
それでも、力強いエメランスの言動に信頼を置き、いつしかエメランスの幼い頃の秘密を打ち明けられるようになります。
エメランスからあることを頼まれ、その信念に基づいた考え方に戸惑うものの、実行する約束をしますが、それが上手く実行できずエメランスを怒らせると共に自分も苦しい思いをすることになってしまいます。
あらすじ
その1 マグダとエメランス
1960年、ブタペスト。元教師で今は小説を書いているマグダの家に家政婦としてエメランスがやってきます。
気難しいエメランスは、たまに皮肉を言うし、ニコリともしないけど仕事は一流。
数日前から体調を崩していたマグダの夫:ティボルを見ていたエメランスが、マグダに「旦那様は肺の病気だと思うから病院に行った方がいい」とアドバイスします。
ある夜、ティボルの咳が止まらなくなり、喀血し救急車で病院へ。
不安で取り乱すマグダにエメランスは「大丈夫。人が死ぬときは、犬が吠えるか、ガラスが割れるから。私を信じて」とマグダを抱きしめます。
落ち着いた様子のマグダに、エメランスは自分が幼かった時のことを話し始めます。
その2 イヌのヴァイラ
ある日、マグダとティボルが雪道を帰宅途中、雪の中に埋もれていた子犬を見つけ、連れて帰ります。
エメランスは、マグダから受け取り犬を世話して、いつの間にか、その犬にはエメランスが「ヴァイラ」という名前を付けていました。
後にマグダは、幼少期エメランスがかわいがっていた子牛がヴァイラという名前だったこと、だけど、売られて行くヴァイラを助けたことで祖父から目の前で食用に裁かれ、「愛するものを失わないよう、2度と愛するな」と言われたことを知ります。
その3 エメランスの待ち人
ある日、マグダは、エメランスから「人が訪ねてくるから、私もこの家に住んでいることにしてほしい。旦那様が帰るまでには、元に戻すから食事を振舞わせてほしい」と頼まれます。
マグダは了承し、自分は出かけていきます。
いそいそとテーブルセッティングをするエメランス。食事の用意も完璧に整った頃、電話が鳴り「エメランスさんに伝言があります。仕事の関係でヨーロッパには行けなくなった、ということです」と伝えられます。
その時点では、待ち人が誰かはわかりませんが、後にユダヤ人虐殺から逃れるため、以前勤めていたグロスマン家の娘をご夫婦から一時預かり、自分の娘だと偽って田舎に連れ帰っていた子だったことがわかります。
その4 友人の自殺
近所に住んでいたエメランスの友人が自殺したと、知らされます。マグダがエメランスにお悔やみを言うと、「毒だと死ねないこともあるから、首吊りの方がいいと言った。埋葬の服も一緒に決めた」とエメランス。
驚くマグダ。そりゃそうですよね。自殺ほう助になりかねませんもの。
「止めなかったの?」とマグダ。
するとエメランスは、「死を止める権利など誰にもない。私は彼女が好きだったから止めなかった」と。
友人が自殺をした動機は「孤独と病気と年齢」
ちょっと話は逸れますが、少し前にNHKでスイスでの「安楽死」を選んだ不治の病の女性を追ったドキュメンタリーがありました。
日本ではもちろん認められていませんし、国が話題にすることもありません。
だけど、尊厳のある生を全うし、尊厳のある死を選ぶことがそんなにいけないことなのか?と、私は思っています。
だからと言って、自殺しようとしている友人を止めないエメランスの考え方は、かなり偏ってはいるけど、じゃあ友人は生きていて幸せなのか?
だからエメランスは、犬のヴァイラに対しても「その時が来たら安楽死させてやって。愛があるなら、死も与えなくては」とマグダに言います。
その5 信仰が揺らぐマグダ
マグダは信仰心も熱く、教会へも通っていますが、エメランスは「相手が神でも人間でもシンプルに。私の神は井戸の底にも、ヴァイラの心にもいる」と、考え方も行動も信念があります。
マグダは、そんなエメランスに対して「何故、人々は彼女を信じるの?私には信仰心が足りない?」と疑問を持ちます。
なんて言うか、私には信仰している神はいないけど、人は正直な人のことを信じるような気がするんですね。
エメランスは、嫌味だし気難しいし、面倒な言動も多いけど、決してウソは付かないし、お世辞や美辞麗句も並べない、いつでも自分が感じたままに行動し発言しています。
神社での神頼みも否定しないし、先祖を敬うことも大切かもしれなし、信じる神がいることで救われるのならそれもいいけど、自分のやっていることが正しいと押し付けない、とエメランスが言っているように感じます。
その6 エメランスの望まない結果
ある日、エメランスの家の前でマグダと話をしていると、突然の嵐。エメランスは誰も入れたことがない家に、仕方なくマグダを入れます。
そこにいたのは9匹の猫。もし私が死んだら、この猫たちを処分してやって、と頼まれます。
咳込みながら、深々と道に積もる雪をひたすら履いていたエメランス。周りの人が心配する言葉には、聞く耳を持ちません。
遂に外へ出てこなくなったエメランスを心配し、家のドアの外から声をかけるものの、生きているからほっといてくれと。
そんな中、マグダに文学賞受賞の連絡が入ります。
マグダが授賞式に出席している間に、エメランスの家のドアをぶち破り強行突破し、エメランスは病院に運ばれます。そして、家の中で死んでいた猫が処分され、家財道具一式が焼かれ、保健所職員がやってきて家の中を消毒します。
入院したエメランス。一命は取り留めるものの、誰にも見られたくなかった家の中は、白日の下に晒され崩壊。
感想
淡々とした地味な映画だし、若者が観たいと思うようなストーリーでもないし、特別な演出もないけど、私はとてもいい映画だと思います。
エメランスは、家には決して人目にさらしたくなかった腐った食事、ゴミの山を残したまま、危険な状態で病院に運ばれました。
そのまま死んでいたら、何も知らずにいられるのに、助かったからこそ人に知られたくなかったことを知られた苦悩があるわけです。
子牛のヴァイラ、友達の自殺、自分の病気。エメランスは、生きていながら常に「死」を覚悟していました。
そしてマグダは、そんな状況になってしまったことに責任を感じてはいるものの、エメランスが退院してきた後に面倒を見るのはごめんだ、と夫に言うわけですよ。
そりゃそうですよね。他人ですもの。
だけど、エメランスには身寄りがありません。これは映画だけど、現実的にそうした老人が退院したらどうなるのでしょう?
もしかしたら、助からずに亡くなっていた方が、本人にとっては幸せ、ということもあるのでは?と私は思っちゃうんですけどね。
長生きすることがいいのではなくて、自分のことを自分でできて、日々何がしかの喜びが伴ってこその人生ではないのか?と。
映画で描かれている時代は1960年ですし、今とは比べられないことがたくさんあるとは思うけど、人の生死にかかわることは永遠の課題でもあります。
そして、それに対しての意見が、人によって違うのは当たり前だけど、家族が危篤になったとき、どのようにしてあげたいか、本人はどう思っているのか、話し合っておくべきだとは思います。
ラストシーンでは、ある人がマグダを訪ねてきます。そしてマグダと共にエメランスの思い出を語り合います。
重いテーマのストーリーではあるけど、このラストシーンが映画をより良作にしているし、祖父から「愛するものを失わないよう、2度と愛するな」と教えられたエメランスだったけど、本当は深い愛のある人だということは観ているとわかります。
最後は明るい太陽の陽で・・・。