洋画

未公開映画「ザ・キッチン」ネタバレ感想|女は黙って従っていると思っていた男への復讐

日本では劇場未公開の映画「ザ・キッチン」を鑑賞してみました。

舞台は1970年代後半、ニューヨーク市のヘルズ・キッチン。アイルランド系マフィアの3人が強盗の現場でFBIに逮捕されるところから始まりますが、マフィア映画かと思いきや、これは女の戦いを描いた作品です。

評価はそれほど高くはないんだけど、女の闘いだという目線で見るとなかなか興味深い作品です。

それでは、感想を綴ってみたいと思いますが、ネタバレも含まれますことをご了承くださいませね。

作品概略

原題:The Kitchen
製作年:2019年
製作国:アメリカ
キャスト:メリッサ・マッカーシー、ティファニー・ハディッシュ
監督:アンドレア・バーロフ
脚本:アンドレア・バーロフ

原作は、DC Vertigoによるコミックブックのシリーズがベースになっている。イースト・ハーレムとサウス・ブロンクスで撮影。

本作でイタリア系マフィアのアルフォンソを演じたビル・キャンプは、209年には本作と『ジョーカー』が1ヶ月以内に公開され、どちらもDCコミックスの映画化による作品。

ざっくりあらすじ

アイルランド系マフィアを夫に持つキャシー、ルビー、クレアの3人は夫がFBIに逮捕されたことで、すぐに生活が困窮する。

そこで3人は、夫たちがやっていた闇商売を引き継ぐことにするが、組織内での抗争、敵対勢力との闘争に巻き込まれていく。

ヘルズ・キッチン

画像引用元:IMDb

ニューヨーク市マンハッタン区にあるクリントン、またはミッドタウン・ウエストと呼ばれる地域。

1990年代から高級化現象が進んだものの、南北戦争も終結して多くの人々がニューヨーク市へ移住してくるようになり、ヘルズ・キッチンも人口過密状態になった。

貧しいアイルランド系アメリカ人たちが港湾などで働く肉体労働者として済むようになると、貧困層の増加によってギャングが活動するようになっていく。

1960年代になるとコンテナ化で貨物船はコンテナ船が主流となったことで、次第に港湾作業員の仕事がなくなりその数は減少していったが、今作は1970年代ヘルズ・キッチンにおけるアイルランド系マフィアの物語である。

感想

本作に対する批評家からの評価は芳しいものではない。映画批評集積サイトのRotten Tomatoesには127件のレビューがあり、批評家支持率は21%、平均点は10点満点で4.63点となっている。

サイト側による批評家の見解の要約は「主演を務めた3人の才能豊かな女優はダラダラとしたストーリーを何とか鑑賞に堪えるものにしようと努力している。しかし、『ザ・キッチン』は乱雑な犯罪スリラー映画であり、複数箇所を根本から修正する必要がある。」となっている。

Wikipediaの評価より

確かに多少のダラダラ感は否めないものの、この映画はマフィア映画、犯罪スリラーというジャンルではなく、女たちの復讐物語であると私は思うんですね。

ロブを夫に持つクレアは、日常的に夫からDVを受けています。そして黒人であるルビーは、義母からいじめられ、夫が好んで飲んでいるビールが探したけど見つからずに買えなかったというと「もうワンブロック歩いて探せ」と言われる始末。

メリッサ・マッカーシーが演じているキャシーだけは家族仲は良好だったものの、育ち盛りの子供を抱え夫が収監されてしまうとすぐに生活に困ってしまうわけです。

半世紀ほど前のアメリカでは、まだまだ人種差別もひどく、女性の社会的地位も低かった時代。

3人の妻たちが、自分の置かれた立場を仕方ないと思いながらも不満が内側に溜まっていくのを感じます。

大体、男ってのは黙って従っている場合、文句はないと解釈するヤツが多い。もうちょっと相手の立場になって考えるとか、自分が同じことをされたらどう思うかとか、一歩先を考えるべきなんですよ。

あ、違うか。

一歩先を考えられないのは、男というくくりじゃなくて「アホ」というくくりですかね。

まあ、そんなことが積み重なり、彼女たちの中には不満も積もり積もっているし、お金がなくちゃ生きていけないという切羽詰まった事情があったわけです。

そこで、3人は相談して夫がやっていた闇商売を引き継いでいくんだけど、引き継ぐというより乗っ取っていくって感じ。

闇商売を引き継ぐ

夫たちが逮捕された後を引き継いだのがジャッキーという男。こいつがえばり腐っているだけで無能。

そもそも能ある鷹は爪を隠すと言うじゃない?それって真実と私は思っていて、能力のない奴ほどギャーギャーうるさいし、無意味にえばり散らすし、オレは偉いんだと誇示する。

ジャッキーもそんなタイプ。

3人の妻たちが、みかじめ料を徴収している店に調査に行ってみると、大した仕事はしていないのに法外な金額だけを徴収しているってことがわかるわけ。

そこで、彼女たちは金額に見合った用心棒的役割を果たし、それならみかじめ料を支払う価値がある、と店側の満足度を上げる作戦に出る。

商売はWinwinなんですよ。

どちらが一方的に得をするような取引は、長続きしない。ジャッキーはえばり腐っているだけのアホです。

キャシー

その商売の方法を考えたのがキャシー。3人のリーダー的役割を務めています。

メリッサ・マッカーシーがキャシーを演じていますが、ぽっちゃりとした豊満な肉体はある種の安心感が得られます。

一方で、メリッサ・マッカーシーのぽっちゃり体形は、コメディ作品でもプラスになると感じるのが「ライフ・オブ・ザ・パーティー」

娘と同じ大学に入学してハチャメチャな学生ライフを楽しむ母親という役柄なんだけど、ダンスも見事だし、自分が楽しもうと思えば人生って捨てたもんじゃないかも、と思わせてもらえる明るい作品です。

闇商売を引き継ぐというか乗っ取ってしまえば、そりゃあトラブルにも巻き込まれますよね。

違うエリアを担当しているイタリア系マフィアが物申す!とキャシーを呼び出すんだけど、その時も相手に損をさせないような条件を差し出して手打ち。

どんなことでも解決には、暴力よりは知恵が勝るってことです。

イタリア系マフィアのボスの女房であるマリアが、敵対する相手であるキャシーに向かって「オンナは強いことを証明して」と応援の言葉を掛けるシーンが印象的。

マリアもマフィアである夫に対する不満があるってことだし、それがオンナという地位を虐げていることなんだろうな、と想像できます。

キャシーは夫との関係も良好だったのに、夫が出所してから問題が発生。夫にしてみたら、自分がいない間に妻は生き生きと働く居場所を見つけ、何も困らずに活躍していたわけで、その姿に嫉妬のような感情を抱くわけです。

これもありがちですよね。

今の若い男子には、そうした感情はないかもしれないけど、昔の男たちにはオンナごときに負けてたまるか、とか、女より男の方が優秀だという思い込みがありますから。

そんな感情から、夫ジミーは問題行動に出ちゃいます。それがキャシーの逆鱗に触れる。

だけど、キャシーは夫を罵ったり、感情を爆発させたりしません。

ここ!怖いよねー。

本当に怒り心頭に達したとき、個性もあるだろうけど、無言が一番怖いんです。相手に向かって感情を爆発させるのは、まだ前段階。無言が一番怖いことを覚えておきましょう。

ルビー

3人の中で一番したたかなのがルビー。夫には愛人がいて、そのことを義母も知っていて、それをネタにいじめられたりもしているんですね。

屈辱的です。

だけど、義母は生活費をルビーに無心したりして、そんな態度のババアに親切にしてやる理由がどこにある?と誰しも思いますよね。

当然、ルビーも義母に対しては腹に据えかねていて、しっかりと復習を果たします。

今作は復讐の嵐で、そこまで人を殺さなくても物語は成り立つんじゃない?と少し思いますけどね。

ルビーの金儲けのやり方に、キャシーはやり過ぎなんじゃない?と一抹の不安を覚え、仲間割れか?と思うような場面があったりもするけど、お互いに仲間割れをしたら損なことをしっかり自覚しているんですね。

ここは賢い選択です。

アホなオトコだったら、ぶっ殺してやる!的なドンパチになるに決まってますから。

商売は、プライドより損得勘定です。

なるほどね、そこからもうルビーの策略だったってことか、とびっくりする展開が後半に待っていて、ルビーのしたたかさと家族に対する不満の大きさがわかります。

クレア

日常的に夫から暴力を振るわれていたクレアは、夫が逮捕されて一番ホッとしていたかも。

だけど、暴力を振るわれていたことで常にどこかおどおどしている習性が身についてしまい、それって卑しいヤツは敏感にかぎ分けるわけです。

ある日、アホなジャッキーから襲われそうになり、それを助けたのが昔からクレアを思っていたガブリエル。

そのことがきっかけとなり、クレアとガブリエルは恋仲に。だけど、夫が出所してそのことを知ったら、もちろん問題になりますよね。

はい、その通りです。

だけど、クレアは暴力のない愛情を注いでくれるガブリエルと一緒にいることで強くなっていきます。

誰と愛し合うか、誰を選ぶか、自分の何を見てくれているか、そうしたことは人生を左右するほど大きくて大事なことです。

ただね、二人の関係は長く続きません。

クレアって不幸を身にまとったようなタイプだな、と感じちゃうんですね。

たまに現実にもそういうタイプの女性っているように思うんだけど、それは自分の力では修正できないことなんでしょうか?

まとめ

キャシーの実の父は、娘の仕事を知っていて、ずっと反対していたんだけど娘や孫たちには惜しみない愛情を注いでいるんですね。

そして、最後の最後に娘に向かって「時代は変わる、強く生きろ」と。

このパパの言葉は何を意味しているのだろう?と考えてみました。

多分、娘の仕事を胸を張って応援することはできないけど、自分が選んだ道なら頑張れ!ということなのかな?

そこに真っ当な人生を歩んできた老人の価値観と娘や孫を愛する気持ちとの葛藤、全てのことを考慮した上で最優先すべきは娘や孫に対する愛情だったのかな、と感じました。

今作は、単純なマフィア映画ではありません。

感動作ではないし、正攻法でもないし、見本になる姿ではないにしろ、オンナの地位が低かった時代に、生きるために立ち上がり、自分を見失わず支配される生きていくために戦った女性の物語です。

昭和の時代に育った女性たちにはおススメの映画かも。

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