日本では劇場未公開のカナダ製作映画「レベル16 服従の少女たち」を鑑賞いたしました。
暗くて、じわじわ恐ろしい・・。
派手な格闘もドンパチもほぼないんだけど、少女たちの置かれた環境がわかるにつれ、そろりそろりじゃなくて、じわりじわりと怖さが迫ってくる感じ。
決して評価が高いわけじゃないのが個人的には残念だけど、私としては、とても好きなジャンルの映画でした。こういうのを掘り出せるから、未公開映画を掘ってみたくなるんですよねぇ。

未公開映画では、こちらもじわりじわりと怖くておススメ!
さてっと、これを書いちゃうと、想像力豊かな方は、ピン!ときちゃうかもしれないけど、女性の若さや美への執着心て、限度を超えるとホラーです。
1980年代に「永遠に美しく・・」という、永遠の美しさを追求して争う2人の中年女性の姿を描くブラック・コメディ映画がありました。
いつまでも美しくいるために、あらゆることに対して「もっと!もっと!」とエスカレートしていく気持ちは、今ならわからなくもないけど、行き過ぎた美への執着心の着地点は「崩壊」なわけです。
ネットで芸能人を「劣化」と表している記事があるけど、そんな表現をするから巷の女性が「若さや美に執着する」ことにもなるのだと思います。誰でもが劣化と無縁ではないことを、若い頃は実感できないのよね。私もそうだったけど。
何事も過ぎたるは及ばざるがごとし、ってことですかね。
それでは「レベル16 服従の少女たち」へGO!あらすじはネタバレしていますことをご了承くださいね。
作品の概略
製作年:2018年
製作国:カナダ
上映時間:102分
監督:ダニシュカ・エスターハジー
キャスト:ケイティ・ダグラス 、セリーナ・マーティン
16歳のヴィヴィアンとソフィーは、孤児として幼いころからとある寄宿学校で育てられてきた。
少女だけのその学校では、「服従」と「清潔さ」が美徳として重んじられ、外界との接触は一切絶たれた規則正しい生活を送り「純潔」を保った結果、優秀な生徒は素晴らしい家族に里子として迎えれらると教え込まれていた。
いよいよ最終学年である“レベル16”に進級した2人だったが、健康のためとして日々投与されるビタミン剤に疑問を持ったソフィーは、ある日それを飲まないようヴィヴィアンを説き伏せる。
そして、その夜、いつものようには眠りにつけない2人は恐ろしい光景を目にするのだった…
あらすじ
その1 見られている
映画は、朝の洗顔風景から始まります。同じ寝巻を着て、廊下の左側を一列になってうつむきながら歩く少女たち。
蛍光灯の光が寒々と照らされ、窓もない無機質な廊下を、白いお揃いの寝巻をまとい、同じ髪型をした少女たちが、うつむいて一列に歩いている姿を見るだけで、この作品の異常さが伝わってきます。
手には、自分専用のタオルと石鹸。そして、ひとりずつ洗顔をする洗面台の正面には、カメラが取り付けられ、監視されています。
ヴィヴィアンが、弱視のソフィアが落とした石鹸を拾ってあげていたところで、洗顔の順番が来てしまい、時間内に監視カメラへ映らなかったことで罰を受けることになってしまいます。
ヴィヴィアンは、映らなかったことの釈明をソフィアに求めますが無言。
監視カメラに映らなかったことで、警報音と共に「Clean Girl、Clean Girl、Clean Girl」と、耳をふさぎたくなるほどの連呼がスピーカーから流れてきます。
その2 遵守すべき清潔さ
ヴィヴィアンたちが所属している「ヴェスタリア・アカデミー」という寄宿学校には、厳しい掟があり、それを破ると罰せられます。
アカデミーは「女性の美徳」として、従順・清潔・忍耐・謙遜・純潔・温厚・節度を掲げています。
そして、それらをきっちりと守っていれば、16歳になったとき、優しい家庭に里子にもらわれていく、と先生から教えられているんですよ。
統制され、厳しいルールが決められ、守らなければ罰が待っている。それでも守るのは、優しい家庭に里子にもらわれる、という希望があるから。
しかぁーし「女性の美徳7か条」が、時代錯誤も甚だしいんだけど、少女たちはアカデミーの外に出たことがないから、何の疑問も感じないんですね。
清潔でないと人から言われようもんなら、止めて!私は清潔よっ!と、パニックに陥るほど、彼女たちにとってアカデミーの教えは絶対。
女性の美徳の反対側にあると教えられているのが、好奇心・怒り・感傷・粗野・・。結局は管理しやすいように、コントロールしてるってことです。
マイナスの感情が沸くから人間らしいのであり、マイナスな感情を自分でコントロールする術を学ぶことから、人の気持ちもわかるわけで、とは言え、アカデミーにとって大事なのは、決して「教育」ではなく、コントロールなんです。
その3 怪しいビタミン剤
洗顔の時間にソフィアから本当のことを言ってもらえなかったヴィヴィアンは、レベル16になったとき、ソフィアと再会します。
アカデミーでは、レベル16が卒業の年。少女たちは、優しい家庭へ里子に行くことを楽しみにしています。
再会したヴィヴィアンは、洗顔事件のことを恨んでいるため、ソフィアを避けていますが、ソフィアから「毎日配られるビタミン剤は飲まないで!」と忠告されます。
少女たちは「健康は体を作り、病気を防ぎます」という放送の中、毎日ビタミン剤と信じている錠剤を飲まされています。
この校内放送が、感情も抑揚もない言葉で繰り返され、非常に不気味。裏で行われていることの恐ろしさと陰湿さを感じさせます。
一体、アカデミーの目的は何なのか?少女たちの未来は?
その4 徐々に明らかになるアカデミーの秘密
ソフィアを恨んではいたものの、忠告を聞いてビタミン剤を飲まなかったヴィヴィアンは、その夜、初めて目にした光景がありました。
みんなが同じ部屋で寝静まったころ、警備員がやってきて、赤い唇の女教師に指示され、少女を別室に運ぶこと。
その夜運ばれた少女の一人が、ヴィヴィアン。
部屋にいたのは、初老の夫婦。「日光による損傷がなく、お肌の輝きと艶が違います」という赤い唇の女教師の説明を聞いて、寝ている少女をじっくりと観察した後、「この子を買うわ」と夫人が言います。
ピンときました???
アカデミーには、専属の校医がいます。こいつが曲者!ソフィアと少しずつ情報交換をし、アカデミーは何かがおかしい、と感じたヴィヴィアンは行動に出ます。
ふたりで協力してアカデミーから逃げ出す計画を立てますが、まあいろいろと邪魔は入るし、トラブルが発生するわけですよ。そりゃあ、すんなり逃げられたら映画としての面白みはないですもんね。
ふたりは、逃げこんだ地下室で、クラスメイトだった少女の死体を見つけますが、なんと!彼女は、顔の皮をはがされていました。
そうです!アカデミーは、病院が経営していた「飼育場」。若くて美しいお肌を作るために、貧困層から子どもを買ってきて育てていたわけです。
感想
女性の根底にある美や若さへの執着心を利用して、ひと儲けしようという悪だくみが描かれている作品です。
映画に描かれていることが、そのまま現実におこるとは考えにくいけど、似たようなことはあるだろうと思います。怖いですねぇ
ドアを開けるカードキーが使えず、ヴィヴィアンが他の方法でドアをこじ開けるのですが、「それで外れるわきゃないって」という安易な方法だったり、弱視だったよね?と疑問に思うほどソフィアの行動がキビキビしていたり・・・
と、ちょいちょい現実的じゃない部分もありましたが、ベースにある女性の美や若さへの執着をこうした商売に繋げる発想は、現実でも起こりうることですよね。
中盤までは、何故少女たちは団体生活をしているのか?がよくわからないにも関わらず、恐ろしいことが隠れているに違いないと確信できる運びに興味が沸き、最後まで面白く鑑賞しました。
映画は、最後の最後以外は、全てが外の空気を全く感じないアカデミーの中だけ。一瞬、校医の部屋の窓から外の風景が映るけど、外気を感じない閉塞感が、映画をより恐ろしいものにしています。
校医でもあり美容整形外科のドクターでもある男性が、アカデミーの経営が苦しいことを漏らすシーンがあり、私もこれで採算が合うのか?とは感じていたんですね。
何十人もいる少女たちの生活を全てアカデミーで負担しているのだから、セレブ夫妻はいくら出して若い肌を買うのだろうか?と思っちゃったわね。
ゲスな勘繰り?
校内も少女たちの服装も、全てが無彩色に近い色使いの中、女教師の赤い唇だけが艶々と色彩を放っています。周りが無彩色だからこそ、その赤が際立ち、赤い色に込められたメッセージがあるように思いました。
歳を取って、鏡に映る自分が劣化していくのは残念に思うけど、若さや美への執着は、心の醜さを生む!ということを肝に銘じよう、と感じた映画でもありました。
姿勢が悪くなって老けた印象にならないよう、せっせと筋トレでもすっかな。