SNSの開発者や心理学者、医師など様々な分野の意見を取り入れて、デジタル社会への警鐘を鳴らすNetflixのオリジナルドキュメンタリーTh Social Dilemma「監視資本主義: デジタル社会がもたらす光と影」
スマホを持っている大多数の人がTwitter、Facebook、Instagramなどのソーシャルメディアを利用している現代。
そして最近では、そこへ投稿された誹謗中傷が原因とみられる若い女性の自殺について、多くのメディアが取り上げていましたよね。
昔だったら全く考えられなかったコミュニティが出来上がり、それは楽しさと苦悩が表裏一体となっているわけで、今作はそのあたりを様々な分野の人にインタビューをして使っている人に警鐘を鳴らしているドキュメンタリーになっています。
Contents
作品概略
原題:Th Social Dilemma
製作年:2020年
製作国:アメリカ
キャスト:スカイラー・ギソンド、カーラ・ヘイワード、ヴィンセント・カーシーザー
監督:ジェフ・オルロウスキー
脚本:デイビス・クーンブ他
ざっくりあらすじ
テック企業内部の専門家による証言を基に作られた調査ドキュメンタリー。SNSを使うことが当たり前になっている現代の私たちへの啓蒙的な内容。
自分が選んで観ていると思っているスマホやPCの画面の記事や映像は、膨大なデータの蓄積によって趣味嗜好、精神状態などから導き出され、それにコントロールされているのかもしれない。
感想
「偉大なるものは全て呪われている」という文言が映し出されて始まるこのドキュメンタリーを最後まで観ると、SNSとの関わり方をもう1度考えるべきと思わされます。
便利に使ってコントロールできていると思っているのは単なる思い込みで、実は私たちの日常生活はすでにAIにコントロールされているのかもしれません。
今作の中でインタビューに応じているのは「Google」「Facebook」「Twitter」「Instagram」など、誰でもが知っていて必ずひとつくらいは使っているであろうアメリカを代表するテック企業の元取締役やエンジニア、立ち上げメンバーたち。
彼らが感じている「倫理的な疑問」を知ると、今後私たちがやらなければならない課題が見えてきます。
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この本を書いたコンピューター科学者である「ラニアー・ジャロン」もインタビューに答えていました。
人の関心を得るための競争
今作の中では、両親と3人兄弟という構成の家族が出ていて、夕食のときにはスマホを見ないで家族での会話を大切にしたいと母親が、タイマー付きの箱に家族全員のスマホを入れてカギをかけちゃうんですね。
タイマー付きなので、時間にならないと箱は空かない。
すると、箱の中で確か設定は11歳だった末っ子のスマホから着信のお知らせ音がなります。
どうしてもすぐにチェックしたい末っ子は、箱を破壊してスマホを取り出してしまいます。
これはドキュメンタリーの中のドラマだけど、現実的な設定だなと感じます。着信音に対して、同じようにすぐにチェックしたい衝動を持っている人はたくさんいるはず。
自分のスマホを持って自室に引き上げた末っ子は、自撮りをしてSNSにアップするんだけど、それに対して「耳が大きいね」というコメントが寄せられ、ひとりで鏡を見ながら涙します。
コメントした人にそれほど悪意はなく、なんとなくつぶやいだだけだっただろうけど、言われた方にはずっしりとした重みになってしまうことってある。
つい最近も、SNSで誹謗中傷を受けて自殺してしまった女性の事件が続いて話題になりました。
おばちゃんになると面の皮も心の皮も厚くなってくるから、多少のことは「ふん、アホくさっ」と思えるけど、若い心は繊細です。
そして、人からの評価がとても気になるお年頃でもあるわけで、SNSというツールを使って関心を得るために競争しているともいえますよね。
そんなこんなもSNSがなければ起こり得ないことではあるけど、じゃあ自分はSNSを使わないでいられるか?と言ったら、きっとそれも難しいと判断するのが若い世代。
誰が悪いのか?諸悪の根源は何か?
すでにこの世に存在しているツールを、無にしてしまうことはできません。法の整備も追いついていません。
じゃあ、どうするか?使う人のモラルやルール、倫理観もすごく大事、と私は思います。
何故、SNSは無料で使えるのか?
様々なツールが無料で使えるのは、そこに広告が入るからです。
そして、より効果的な広告を差し込めるよう、利用履歴や趣味嗜好などの個人データが蓄積&分析されて使われています。
私もyoutubeでよく動画を見ますが、高頻度で閲覧するのは「トレーニング動画」や「ニュース動画」「子犬系」です。
すると、自分が鑑賞していた傾向に沿ったおススメ動画がずらりと並び、それらを見ていくとトレーニング動画ならプロテインやパーソナルトレーニングジムの広告、ニュース動画なら自己啓発系、子犬系は何だったかな?関連性の高い広告が出てきます。
操作しているようでいて、人はデジタル世界に操作されているのかもしれません。いや、されています。
無料のツールを使っている場合、自分の個人データが利用されてしまうことは覚悟しなければならないってことです。
プロパガンダ
今作を鑑賞していて一番恐ろしいと思ったのが、ネットによる「プロパガンダ」
プロパガンダ(propaganda)とは、意図をもって、特定の主義や思想に誘導する宣伝戦略のこと。大きな括りでは国家においての思想統制や政治活動、小さな括りでは宣伝広告や広報活動もプロパガンダに含まれる。
フェイクニュースや頻度の高いニュース、話題性のある事柄、有名人の発言などによって、知らず知らずのうちに自分の思想や行動が大きな影響を受けています。
その例として、2016年アメリカ合衆国大統領選挙の期間中に広まった「ピザゲート事件」を取り上げていました。
ヒラリー・クリントン候補陣営の関係者が、ピザ店を拠点とした人身売買や児童性的虐待に関わっているというフェイクニュースがTwitterなどで瞬く間に広まり、それを信じた男がピザ店にライフルを持って押し入り発砲するという事件です。
世界的なコロナ禍にある今、「コロナは水を飲めば流せる」「何か重大なことを隠すためにコロナを広めた」というフェイクニュースが広がった時期もあったそうです。
私が記憶している卑劣なフェイクニュースは、2016年に発生した熊本地震の直後「熊本の動物園からライオンが逃げた」という写真入りのTwitterへの投稿。
被災した人々の気持ちや状況を全く考えていない。自分のことしか考えていないわけです。
Twitterは、フェイクニュースが6倍速く伝わると今作の中で言っていますが、一体どれだけのフェイクニュースがあり、どれが真実なのかは文字を見ただけではわかりません。
だからこそ、使う側の倫理観や道徳観がものすごく必要なわけだけど、今作では「ニセ情報は金を生む」とも言っています。
動画やネットニュースでも「煽り」とした思えないタイトル付けが、当たり前になっていますものね。タイトルに煽られている、という気持ちを持つことも大事。
リアルな会話からしか得られないこと
電車に乗っても、喫茶店に入っても、どこぞの待合室でも、道を歩いている時でさえ、みんなスマホの画面を見入っています。
確かに時間をつぶすために、スマホはすごく便利です。
だけど、今作ではSNSに夢中になり過ぎてリアルな会話がなくなってしまうと、民主主義が揺さぶられると警鐘を鳴らしていて、「そんな大げさなっ」とも言っていられない現実があることを感じます。
人は自分の考え方に沿った記事を読むし、それで更に自分の考えを肯定するし、そうした意見に「いいね」をするわけです。
もしリアルな会話だったとしたら、友人と意見が違った時「何故、そう思うのか?」「お互いの意見の相違点はどこにあるのか?」などを話し会いますよね。
そうして会話の中から合意点を見つけ出したり、自分とは反対意見であろうと納得がいく点を見つけ出したりできけど、ネットでの「いいね」は一方向なので、建設的、客観的に物事を図れなくなってしまう落とし穴があるってことです。
だけど、どんなにAIが賢くなろうと、フェイクニュースを解決することはできないと言っています。
そうすると自浄作用はなく、より混沌としてくるわけですよね。
リアルな人間関係だと、意見や思想が多少違おうと、支持する政党が別であろうと、人としての魅力があれば付き合っていくけど、ネットの中での価値観は考え方が合うか合わないか、という判断に陥りがちだから、ちょっとでも相いれない点があればバッサリ切り捨てることができます。
それがいいと思う人もいるだろうけど、人との付合いってそんなにドライなものですかね????
まとめ
私はあまりマメじゃないので、代表的なSNSのアカウントは全部持っているけど、ブログを自動投稿にしてある以外、どれもほぼ使っていません。
以前、Facebookに誕生日を登録していた頃、たくさんの人からお祝いメッセージをいただいたのは嬉しかったんだけど、お返事メッセージを返すのが面倒だったのと、親しい人から何のアクションもないことにがっかりしている自分が鬱陶しくて誕生日の登録をやめました。
たかがSNSに気持ちを持っていかれるのはイヤだし、どんな意見に対しても俯瞰視できるようでいたいとは思っています。
感想の出だしで紹介した「偉大なるものは全て呪われている」という言葉。呪われているというのは言い過ぎだとしても、偉大なるものこそ妄信しちゃいけない、という感じですかね。
デジタル革新に対して、法整備が追い付いていないのが現状のようですが、ひとつの対策として「情報料にたいして課税する」と誰かがインタビューの中で言っていました。それはいいかもね。
SNSを使うか使わないかは、それぞれの判断だけど、こうした裏側を知っておくことは決して損じゃないと思いました。