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映画「WAVESウェイブス」感想|若さの暴走と家族のしがらみと明日への希望

本作のオフィシャルサイトにあった「超豪華アーティストによる31曲が全編を彩る。ミュージカルを超えた<プレイリスト・ムービー>」という文言に心惹かれて観に行ってきた作品でした。

早速、感想を綴ってみたいと思いますが、ネタバレも含まれますことをご了承くださいませね。

作品概略

原題:Waves
製作年:2019年
日本公開日:2020年7月10日
製作国:アメリカ
キャスト:ケルビン・ハリソン・Jr.、ルーカス・ヘッジズ
監督:トレイ・エドワード・シュルツ
脚本:トレイ・エドワード・シュルツ

脚本も担当したトレイ・エドワード・シュルツ監督は1988年10月6日生まれの若手。子どもの頃から映画を制作し、2010年、短編「Mother and Son(原題)」で監督デビュー。

自身の家族や親族のエピソードをもとに描いた2014年の「Krisha(クリシャ)」でサウス・バイ・サウスウエスト映画祭の短編コンペティション部門で撮影賞を受賞。

「Krisha(クリシャ)」は本作のプロデュースと配給を担当した「A24」に買収され、2016年に公開。

「Krisha(クリシャ)」は、トレイ・エドワード・シュルツ監督の実の叔母と親族との軋轢や、薬物・アルコール依存症だった父親とのエピソードなど、監督自身の体験をもとに描いた家族ドラマで、日本では2020年に公開予定になっている。

プレイリストと監督の注釈

映画のサウンドトラックには、著名なアーティストたちのラップ、R&B、オルタナティブ、エクスペリメンタル・ポップスのコンピレーションが収録されていますが、シュルト監督は特定の曲を念頭に置いて撮影を行い、そのラフカットをアーティストに送ったそうです。

いくつかの曲の確保には苦労したそうですが、最終的にはクリアし、映画で使用された曲の全リストがA24のウェブサイトで公開されていて、シュルト監督が曲の使用法を注釈している記事が掲載されています。

そのページがこちら

全ページ英語ですが、自動翻訳に設定すると大体の意味は理解できますので、ご興味があれば是非!

ざっくりあらすじ

成績優秀でレスリング部のエリート選手であるタイラーは、肩の不調で病院に行くと、選手生命の危機を告げられ、これ以上レスリングを続けると致命傷になると言われてしまう。

そんな絶望感を抱えていた時、付きあっていた同級生のアレクシスと、あることがきっかけで二人の中に隙間風が吹き始める。

タイラーは、恵まれた家庭に育ち、何不自由のない生活を送っていたが、厳しい父の教えに逆らわずにいるものの納得いかずにいる。

平和だったタイラーの生活が少しずつ狂い始め、ある夜、タイラーが起こした事件が家族の運命を狂わせる。

一年後、タイラーの事件がきっかけで心を閉ざした妹エミリーの前に現れたルークの優しさに、エミリーは心を開き二人は恋に落ちる。

感想

画像引用元:映画.com

辛いときも悲しいときも、そして楽しいときやエネルギー溢れるときも、音楽が心に寄り添ってくれることには激しく同感だけど、このシーンにも歌のある曲が欲しかったかな、とか、ここはちょっと静かに観ていたいかな、というギャップは感じてしまいました。

青春映画に心動かされたり、感動したりする年齢じゃなくなっているというジェネレーションギャップだったのかも、と少し寂しい気持ちにはなりましたけどね。

映像は抜群にきれいです。ものすごくそこにこだわって作られた作品だと感じるし、新しい映画のスタイルがそこに存在していた感じ。

タイラーを演じたケルビン・ハリソン・Jr.は、1994年7月23日生まれなので2020年には26歳になるわけですが、高校生役が全く不自然じゃなくぴったりな役柄でした。

タイラー

恵まれた家庭で不自由なく過ごし、レスリング部でも活躍し、恋愛も上々だったタイラーだったけど、家庭の中では絶対の存在である父親には自分の気持ちすら言えずにいるんですね。

父親は、息子に対して厳しいのは当たり前と思っているんだけど、本当にそれでいいのか?

頭から押さえつけるような厳しさは、心の中にマグマを育てるだけじゃないのか?

表面上は従っているようでも、心の中のマグマが爆発するかもしれないことを何故、父親は悟ることができないのか?と感じながら観ていると、タイラーの大きなバッドタイミングがやってきます。

それがレスリングが出来なくなるほどの肩の故障。

それだって、肩が痛いと父親に訴えてたじゃん、もっと早く医者に連れて行ってたら、そんなに大事にならなかったかもしれないのに、パパのせいじゃん、と感じます。

父親は、タイラーから肩の痛みを訴えられていたのに、舐めてれば治る、的に受け流していたんですもん。

ひとりで病院に言ったタイラーは、重症だということを両親に告げず試合に出て取り返しのつかない結果になっちゃうんですね。

画像引用元:映画.com

そして次のバッドタイミングが、恋人アレクシスの妊娠。タイラーは疑うことなく生まない選択肢なんだけど、アレクシスは中絶に躊躇し生む選択をします。

どちらが正解なのでも不正解なのでもない、そうした問題に正しい道なんてないんです。だけど、概ね若い男子は動揺も手伝って無責任な言動になりがち。タイラーもその例に洩れません。

もう少しアレクシスの気持ちになってあげられたら、あんなことにはならなかったのに、と当事者じゃないからこそ思うことはたくさんありますけどね。

で、そんなことから二人の仲は上手くいかなくなるんだけど、タイラーは未練たっぷりで、ある日事件が起こってしまいます。

人生長くやってると、諦めることの大切さとか、人は自分の思う通りにはならないこととか、思い込みが自分の生活を窮屈にすることとか、良し悪しは置いといてそんなことを学んでいくんです。

若いって素晴らしいことなんだけど、自分の感情で暴走しちゃうこともありますよね。

タイラーの不幸も感情の爆発と不運から生まれてしまいます。

故意の事件じゃない場合、不運が重なってしまうこともある。それによって、家族までその不運に巻き込まれてしまうんですね。

エミリー

今作は2部制になっていて、前半の主役がタイラーで、後半はタイラーの事件で孤独を強いられてしまった妹のエミリーがクローズアップされます。

学校でも淡々とひとりで過ごしていたエミリーに、事情を全て知りつつ近づいてきたルーク。

ふたりは惹かれあい、付き合うようになり、ある日、離れているルークの父が病床にあり先が長くないと告げられたエミリーは、ふたりでルークの父に会いに行くことを提案します。

家族をテーマになった作品を観るといつも感じるのは、その呪縛。一番自分を思ってくれているのは、両親に違いはないんだけど、わかっていても時には重く感じることもありますよね。

タイラーだって、父親が自分を思って厳しいのは理解していただろうけど、頭から押さえつけられていたことを鬱陶しくも思っていたはず。

エミリーは、タイラーの事件がきっかけで両親の仲が上手くいかなくなっていることを感じています。

両親も心に傷を負っているわけで、無理はないけど家族や他の人を思いやる余裕を失っているようにも感じるんですね。

だからエミリーは、学校だけでなく家の中でも孤独を感じていただろうから、ルークの存在は乾いた土に水が注がれたような気持ちだったに違いありません。

画像引用元:映画.com

ふたりはルークの父親が入院している病院へと向かい、ルークの顔を見た父親は涙を流して喜び、風前の灯だった命が生きようと戦い始めるんです。

でも、病気って残酷。生きようと体は戦っても、それはものすごく辛い戦いなわけで、見ているだけで苦しくなってきます。

人って、希望があると体にも変化が訪れるんです。

エミリーは、ルークの父親を訪ねたことが、自分の家族を振り返るきっかけになります。

まとめ

悲しみや喜びや希望や生命、家族との関係、全てを音楽と共に映像でも表していた作品でした。

タイラーとアレクシスがまだいい関係性だった頃、ふたりで海に入りながら顔を寄せ合うシーンは、オフィシャルサイトのバックにも使われているように青春時代の恋愛のキラキラ感を表しているように感じます。

そして、タイラーがパーティで羽目を外し、車の中でテンションマックスになって窓から顔を出すシーンは、クレイジーな10代男子のパッションを感じます。

タイラーが事件を起こしたときには、逮捕された直接的なシーンはないけど、パトカーのサイレン音とくるくる回る光が折り重なった映像は、事の重要さを十分に感じさせられます。

135分という比較的長めの作品は、今までにない世界観を感じる映画になっていたように思います。

若いだけで無限の可能性を秘めているけど、ほんのちょっとしたきっかけでそれを全部失う可能性もあることを知ってほしいし、ほんのちょっとだけでも相手の今の気持ちを想像してあげることで避けられるトラブルもあるかもしれません。

音楽に興味を持って観に行ってみたけど、後に残ったのは映像の美しさでした。