ベルギー・デンマーク・アイルランドの合作映画「ビバリウム」を鑑賞してきました。
ビバリウムとは「陸生・水生問わず、生物本来の生息環境を再現した飼育・展示用の容器」という意味だそうです。(Weblioより)
この意味を知っていると、映画を鑑賞したとき非常にしっくりきます。
北ヨーロッパという環境で生まれた独特な作品なのかな、という印象を持ちましたが、あらかじめ監督インタビュー動画を見てから鑑賞すると理解しやすかったかもしれません。
動画は下に貼ってありますので、ご興味のある方は是非!
それでは感想を綴ってみたいと思いますが、ネタバレも含まれますことをご了承くださいませね。
作品概略
原題:Vivarium
製作年:2019年
製作国:ベルギー・デンマーク・アイルランド合作
キャスト:イモージェン・プーツ、ジェシー・アイゼンバーグ
監督:ロルカン・フィネガン
脚本:ギャレット・シャンリー
個人的にはホラーが苦手なのでほとんどみないけど、今作の監督ロルカン・フィネガンは、日本での公開作品はないもののホラー映画を手掛ける新鋭の監督。
ホラー作品を多く手がけたことを知ると、今作の独特な展開が多少納得できるのと、下のインタビュー動画を見れば作品作りの意図がわかってきます。
ざっくりあらすじ
何気なく立ち寄った不動産屋でトムとジェマは、営業マンから進められて全く同じ緑の家が整然と並ぶYonder(ヨンダー)という住宅地に案内され、ナンバー9の家を内見する。
内見が終了して帰ろうとするが、案内してくれた営業マンが見当たらず、二人は自分たちの車で帰途につくが、住宅街をぐるぐる回っても必ずナンバー9の家の前にたどり着いてしまい抜け出すことができなくなってしまう。
車のガソリンも底を尽き、茫然としていると目の前に段ボールが届き、中には食料が。次に届いた段ボールには赤ちゃんが入っていて、育てれば抜け出せる、とメッセージが入っていた。
二人はナンバー9の家に住み、赤ちゃんを育てることになる。
感想
ミステリーのカテゴリーになっていたので鑑賞してみたけど、鑑賞後もミステリーの謎は解けないまま、なんとなくの不完全燃焼感が残った作品でした。
もしかしたら、製作がベルギー・デンマーク・アイルランド合作なので、お国柄的な事情や国民性の違いで私にとって難解になっていたのかもしれないけど、どーもモヤモヤが晴れないんですよねー。
以下の感想にはネタバレも含まれますことをご了承くださいませね。
赤ちゃんはミュータント?
段ボールで届けられた赤ちゃんはすぐに子供になり、そこに時間的経過があったのか?それとも人間とは違う遺伝子を持ち、すぐに育つのか?そこは不明なんだけど、声やしゃべり方がものすごく奇怪。
これがホラー的要素ともいえるんでしょうかしらね。違和感しかありません。
そんな声としゃべり方を持つ意味すらよくわからないんだけど、ジェマとトムは子供の言動にイライラさせられます。
お腹が空くと奇声を上げ、その声には鑑賞しているこちらも落ち着かなくなるんですね。もしかすると、それも狙いだったのかも。
穴を掘り続けるトム
ある日、庭でたばこを吸っていたトムが、吸い殻を芝生の上に投げ捨てると、芝が燃えて直径30センチほどの穴が開きます。
トムは車に積んであったシャベルを取り出し、穴を掘り始めるんだけど、掘っても掘っても何も出てきません。
ケータイも通じず、テレビも観れず、他に住民もいない暮らしの中で、トムは穴を掘り続けることが自分に課せられた仕事となり、よりどころになっていきます。
毎日誰とも話すことがなく、仕事もなけりゃすることもない、天気の変化もなく、匂いすらしない暮らしなんて耐えられます??拷問ですよね。
梯子をかけるほど深く穴を掘った末、トムは土の中に骸骨らしきものを見つけます。さてそれは誰??後半にこの謎は解けてきます。
穴を掘るだけの毎日だったトムの精神は、崩壊していったけど、ジェマが正気を保っていられたのは、不本意ながら子供を育てる任務があったからだろうと思います。
人は人とのつながりがあってこそ、生きている意味があるわけで、穴を掘り続けることしかやることがなければ、心が病んでしまっても仕方ない。
静かな映像と恐怖感のある音楽
映像はいつまでもどこまでも静かなんです。登場人物も、不動産屋の営業マンとジェマとトム、そして赤ん坊から育った子供だけ。やがてその子供は大人になるんだけど、ジェマとトムは歳を取っていないんです。
なんでだ?時間の経過はどのくらい?そこは知る必要がない??
はてながてんこ盛りになっちゃう作品なんだけど、そのあたりのことは考えずに見るべき作品なのかもしれません。
静かな映像に恐怖を感じるのは、音響効果とただひたすら続く同じ家の様子。大きな住宅街なのに、人や車の姿はなく電柱や標識など生活感を感じるものが一切なくて不気味な感じがヒタヒタ。
すごく恐ろしいことは何も起こらない。だけど背筋はぞーっとしてきます。
ミステリーを期待して見に行くとちょっと違うような気もするし、展開がじわじわしているためスピード感は全くありません。
作品を通して伝えたいことが何なのか、ということも私には見えてこなかったんだけど、監督へのインタビュー動画で「人間はいわば強制的に社会契約を結ばされている」と語っていることから、そんなようなことを描きたかったのかもしれません。
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すでに鑑賞した方と共有する感想
トムは死亡し、一人になってしまったジェマは、大人になった子供を後ろからつるはしで襲うと道がめくれてそこに逃げ込み、ジェマはそのあとを追っていきますよね。
その時、ようやくジェマは本当の世界に戻れるんだ!と期待しませんでした??
グルグルと時空を巡るような映像の後、ポトンと本当の自宅に放り出されるんだわ、と思って見ていたけど、期待外れでがっかり。
まあね、素人の私が思い描いていたような終わり方じゃ、意表を付けませんからね。
やっぱりそうだったのか!と思ったのは、育てた子供の現実世界での役割。だけど、不動産屋が担う役割って何だったのでしょうね。
人間を拉致して住宅街の一軒家に監禁し、子供を育てさせる目的って何なのだろう?と。
ありきたりなことを言えば、地球を征服するためとか、人間を服従させるためとか、そんな感じになるけど、目的や役割が最後まで分からなかったのが、不完全燃焼の原因かもしれません。
監督がインタビューで答えていた「強制的に社会契約を結ばされている」というのは、自分の意志とは関係なくやらされていること、向かわされている方向が社会的にあらかじめ決められているってことなんでしょうかね。
それを誰もいない不気味な街で強制的に子育てをさせられるという展開に収めてみたってことでしょうか。
うーん、よくわからないけど。
そのあたりの感覚は、国籍や生活環境、年齢によっても違ってくるでしょうしね。
私は不完全燃焼のような感覚で見終わりましたが、こうした作品は好みが分かれると思います。
押しつけがましくない演出や捉えどころのなさを好ましいと感じたり、不思議な映像をアーティスティックと感じたりする方も多いかもしれませんしね。
あなたはどのように感じましたか?