実話を元にした映画「カセットテープ・ダイアリーズ」を鑑賞してきました。
青春映画は普段あまり観ませんが、最近、洋画が少ないので行ってみたんだけど、いやー思いのほかよかったです。
原作を書いたサルフラズ・マンズールが、今作の主人公ジャベドになっています。作品中に出てくるジャベドの友人:ループスとは、30年以上たった今でも付き合いがあるんですって。
いいよねー、そういう関係って。
感想にはネタバレも含まれますことをご了承くださいませね。
作品概略
原題:Blinded by the Light
製作年:2019年
日本公開日:2020年7月3日
製作国:イギリス
キャスト:ビベイク・カルラ、アーロン・ファグラ
監督:グリンダ・チャーダ
原作:サルフラズ・マンズール
原作者サルフラズ・マンズールが、映画の中に登場するジャベドであり、今作は彼の回想録『Greetings from Bury Park』を基にしている。
原題の「Blinded by the Light」は、ブルース・スプリングスティーンのファーストアルバム「Greetings From Asbury Park(アズベリーパークからの挨拶)」の1曲目に収録されている曲名で、邦題は「光に目も
くらむ」
スプリングスティーン・サイドが、未発表ライヴをこの映画のために提供するなど全面協力している。
「カセットテープ・ダイアリーズ」のオリジナルサウンドトラックは、ソニーミュージックのこちらからのページからダウンロードできます。
監督のグリンダ・チャーダは、インド人の両親の元、当時イギリスの植民地だったケニアのナイロビで生まれ、ロンドンのインド人街であるサウスオールで育ち、2歳のときに西ロンドンのサウスオールに移住。
自身の体験から、多くの社会的、人の心にある潜在的な感情の問題、その2つの狭間にあって常に移民が直面する問題を扱っている。
原作者サルフラズ・マンズール
パキスタン出身のイギリス人ジャーナリスト、ドキュメンタリー制作者、放送作家として活躍している。マンゾールはマンチェスター大学で経済学と政治学を学ぶため、育ったルートンを離れた。
ガーディアン紙へ定期的に寄稿していて、BBCラジオ4のドキュメンタリー番組の司会者でもある。
ITNに6年間勤務していた間に、チャンネル4ニュースでプロデューサー兼レポーターを務め、ウディ・アレン、ブライアン・ウィルソン、シネアド・オコナー、ピーター・ガブリエル、ドン・マッカリン、チャーリー・ワッツなどの著名人にインタビューしている。
2005年3月にはBBCのドキュメンタリー番組『Luton Actually』を発表し、番組で彼の家族のパキスタンからルートンまでの旅の軌跡を紹介している。
アメリカに憧れ、アメリカに住みたいと思っていたものの、9.11同時多発テロを目の当たりにしてからは、イギリスが本当の故郷だと考えるようになる。
2010年に言語聴覚士のブリジットと結婚したが、ブリジットが非イスラム教徒の白人女性であったため、当初は母親や兄弟から結婚を反対されていた。
父親は1995年に亡くなっている。
25th June 1988. Wembley Stadium. I was 17 years old when me and my mate Roops went to seen Bruce and the E Street Band in concert. In BBTL my character doesn’t go to this gig but that was artistic licence for the purposes of creating a more compelling film. pic.twitter.com/s5hJlf4xA2
— Sarfraz Manzoor (@sarfrazmanzoor) June 25, 2020
サルフラズ・マンズールのTwitterには、1988年6月25日17歳の時に、ウェンブリー・スタジアムで行われたブルースとEストリートバンドのコンサートへ、映画の中にも出てくる友達のループスと行ったことが書かれている。
ざっくりあらすじ
1980年代のイギリス田舎町ルートンに暮らすパキスタン移民の少年ジャベドが、アメリカのミュージシャン:ブルース・スプリングスティーンの音楽に出会い、影響を受けながら成長していく姿を描いた青春音楽ドラマ。
閉鎖的な田舎町で移民として受ける差別や、保守的な親から押し付けられる価値観に不満や憤りを感じていた中で、ひょんなことから同じ移民の友人ループスからブルース・スプリングスティーンのカセットテープを借りてその歌詞のメッセージ性に衝撃を受ける。
そこから彼や自分のやりたいこと、進みたい道を見つけ、親からの圧力に負けず行動するようになっていく。
感想
音楽は心の友
1980年代、音楽を聴いていたのはウォークマンだったんですよ。忘れていたことを思い出させてくれましたね。
カセットテープに音楽を自分で録音して、それを持ち歩いていた時代。いやー、懐かしいです。
誰しも影響を受けたミュージシャンや歌や音楽ジャンルってあると思うんですね。
失恋したとき、張り裂けそうな哀しみを癒してくれたあの歌、落ち込んでいる時に必ず聞く究極の癒し音楽、緊張している時に聞くと落ち着く歌、ジャベドと同じように自分の人生に大きな影響を与えたミュージシャン。
みたいにね。
今まで忘れていたけど、もちろん私にもありました。音楽はある意味、心の友でもあるわけです。
ぱぱに腹立つ
ジャベドは、移民としてイギリスに来て、田舎町ではそのことで嫌な思いもしているんだけど、いつも逃げるばかりの自分に腹が立っている。いつかちゃんと反撃してやる、と心の中では思っています。
そして、家族の長である父親は絶対的な存在で、妻はオレが見つけてやるから女には目をくれるな、勉強はお金を稼ぐために必要なこと、オレのようにならないためにきちんとした職業に就け、と父親に言われ、バイトして得たお金もそのまま父親に渡すことに対して鬱々としていたジャベド。
このぱぱの言動が、完璧に威圧的で観ていて腹が立ってくるんだけど、それはぱぱの息子に対する愛情でもあるんですけどね。それはわかるんですよ。
自分は移民として苦労してきたから、少しでも息子には苦労のない人生を歩んでほしいという親心。わかるんだけど、高校生の男子にその親心は通じません。
ジャベドは、幼い頃、親友のマットから日記帳をもらったことで、日記をつけるようになり、自分の気持ちを言葉にすることに喜びを感じると共に、それによって癒されてもいたわけです。
友人ループス
ある日、学校内でループスとぶつかったことが縁で、ブルース・スプリングスティーンのカセットテープを借りたことがジャベドの大きな転機になります。
まるで自分の心の中を見ていたのか?と思えるほどの歌詞の内容に、ジャベドは稲妻に撃たれたかのような衝撃を受けます。
こういうこともありますよね。
だからこそ、歌は心の友なんです。
私は高校生の頃に洋楽にハマりましたが、はっきり申しまして全く歌の意味は分かっていませんでした。なのに何故、洋楽に取りつかれたのか?
多分、今まで自分の人生にない世界観を音楽から感じたのだろうと思います。そして、それは洋画好きにもつながっています。
ジャベドがブルース・スプリングスティーンの音楽に出会えたのは、ループスあってこそだし、その縁があったからジャベドの人生の道筋が明確になったとも言えます。
誰に出会い、誰から影響を受け、誰と付き合い、何を思い描くかってことは、おざなりにしちゃいけないとても大事なことだと感じます。
天狗になった?
ジャベドの学校の教師が、これまたいい先生なんです。
彼の文章の才能を感じ取り、評価するだけじゃなくてアクションを起こしてくれるんですね。この教師との出会いがなければ、ジャベドの今はなかったかもしれない。
ただ、ちょっくらいい気になったジャベドは、それが基で親友のマットを怒らせてしまいます。
こういうことも、若い頃にはありがちですよね。
褒められたり、ちょっと自分ってば人と違う、もしかして優秀かも、的なことを自覚しちゃうと天狗になっちゃうのは仕方ないことだけど、肝心なのは後にそれを自覚して改めることができるか?ってとこだと思うんです。
でもね、幼いころから楽しいこと、苦しいこと、辛いことを共にしてきた友情って、そんなに簡単には崩れないんです。これ、私も経験しています。
相手のことを心から信頼しているから、言葉を尽くして心から謝罪すれば元通りになれることが多い。
論文入賞
教師の計らいでジャベドの論文が入賞し、その表彰式が開かれます。
その頃、ジャベドは古い考え方の父親に反発し、父親も自分の言うことを聞かないジャベドに腹を立て、仲たがいしていました。
それを取り持ってくれたのが、ジャベドのガールフレンド。家に行って、表彰式があることを母親に伝えます。
ジャベドが舞台上で論文を読み上げていた頃、両親と妹が会場に入ってきます。
そこでジャベドが語り出したのは、両親や友達や周りの人に対する感謝でした。ここ!泣けるのよ。
天狗になったままじゃなくて、ひとりでは何もできない、周りの人たちの協力があったからこそ今の自分があることにジャベドは気づきます。
まとめ
映画は、ひとりの少年がブルース・スプリングスティーンと出会ったことで変わっていく姿を描いているだけでなく、この作品の監督自身がインド人の両親を持つ移民だった経験から、移民を排除しようとするデモの様子からそうした問題点の提起もしています。
1980年の終わりを描いた作品なので、それから30年経った今でも移民問題は、明らかな解決策はなく、むしろ後退しているようにも感じるこの頃。
両親に対する不満があると「頼んで生まれたわけじゃない」という気持ちになってしまうし、生まれ落ちた環境は自分で選んだわけでもない。
幼い頃は、生まれ落ちた環境の中で生きていくしかないけど、夢に向かって進み続ければ変わる可能生だってあるんだよ、というメッセージも感じます。
ただ、それは簡単なことじゃないし、簡単じゃないとわかっている大人は、誰でもが歩ける失敗の少ない道すじを示そうとしちゃうんだけど、チャレンジができるのも脱線してもやり直せるのも若いうちだからね。
監督のグリンダ・チャーダは、インド文化にある男性が座って食事をしている間に女性が全員キッチンで料理をすることは、圧迫的であると考えていたため、家族のために料理をすることも拒否したそうです。
自分の心の中でどんなに壮大な夢や希望を持っていたとしても、行動を起こさなければ何も変わらない、ということを改めて感じたと共に、親世代の自分としては、ジェネレーションギャップは素直に受け止めたいと感じたかな。
老若男女を問わず、家族で楽しめる作品です。