U-NEXTえ配信中のオランダ制作ドラマ「Swell堤防が決壊するとき」を鑑賞しました。
オランダに史上最大規模の嵐が上陸し、被害にあった人々、嵐が去ったあとの生活、そしてオランダ政府の方針等が全6話で描かれています。
早速、感想を綴ってみたいと思いますが、感想にはネタバレも含まれますことをご了承くださいませね。
作品概略
原題:Als de dijken breken
製作年:2016年
製作国:オランダ
キャスト:ハイス・ショールテン・ヴァン・アシャット、ヤニ・ゴスリンガ、シモーン・ミルスドクター
監督:ヨハン・ナイエンハウス
脚本:カリン・バン・デル・ミーア
オランダの沿岸部とベルギーのフランダース地方での洪水を描き、2016年11月にオランダのNPO局で放送されたドラマ。
実際におこったオランダの災害
ドラマはフィクションですが、オランダは東にドイツ、南にベルギー、北と西は北海に面していて、国土の約1/4が海面よりも低くなっているため、何世紀もの間、そうした低地では暴風雨による高潮や洪水に悩まされてきた歴史があります。
実際におきた、1953年1月31日から2月1日にかけて北海沿岸での高潮災害は、北海大洪水(North Sea flood of 1953)としてWikipediaにも掲載されています。
この災害によってオランダで1800名以上、イギリスで300名以上、その他北海沿岸諸国と海上での遭難を合わせ2500人以上が亡くなり、オランダで損傷した家屋は47,300棟、10,000棟以上が破壊、農地の約9パーセントが被害を受けた大災害だったそうです。
この洪水を期に、デルタ計画が計画実施され、大規模な灌漑事業が行われました。
デルタ計画(オランダ語:Deltawerken デルタウェルケン)は、オランダのライン川河口の三角州(デルタ)を高潮から守るために作られたダム・堤防・水門・閘門などの一連の治水構造物建設およびその計画。
この実際の出来事が、ドラマ作りの大きなヒントになっていると感じましたので、事実を念頭に置きつつ観ると、もっと興味深く鑑賞できると思います。
ざっくりあらすじ
国土の4分の1が海面下にあり、500万人がその土地で暮らすオランダに史上最大規模の嵐が上陸。
ハンス・クリューゲル首相は迅速な対応が急務だったが、経済損失を言葉にする取り巻きもいて、避難勧告が遅れ市民たちは自己判断を迫られパニックに。
嵐がおさまった後の人間関係、オランダ対ベルギーの国の利益を念頭に置いた駆け引き。そんな矢先にハンス首相入院。
嵐が去ったとき、被災した人々はどのように立ち上がるのか・・・・。
感想
全6話の中に絶望と希望、企みと正義、奉仕の心や自分だけ助かりたいというエゴなど、様々な人の心理状態が描かれています。
災害をネタにしたパニック映画ではなく、6話の中には被災した後の生活や首相の斬新な政策を推し進める姿、災害を通してわかった人々の本音や将来への思いまで描かれているのが非常に興味深い作品でした。
登場する人々
糖尿病の母親と息子・娘と住んでいるソニア。夫は刑務所に収監されていて、ソニアに好意を寄せているマヌに何かと助けてもらって暮らしています。
会社を経営しているロベルトは、不仲な妻と二人の娘がいるも、妻とは離婚し愛人と人生をやり直したいと考えていたが、嵐の中、愛人はあっけなく事故で亡くなってしまいます。
ほらね、そんなに自分の思う通りにはいかないんだよ、とは思ったものの、被災してロベルトの兄の家で家族が世話になっているときの妻の態度を見ていると、愛想をつかして愛人を作ったのも無理はないかなと思ってきたりもします。
ソニアの夫が収監されている刑務所は、堤防が決壊したことで水の中に孤立してしまい、刑務所員とふたりで家族に会うため手製の船で脱出します。
そして、引退を表明したプロのヴァイオリニスト:ステインは、妻に先立たれ孤独にさいなまれ自ら死を選ぼうとしていた時、ひとりの少女:キミーが助けを求めて家にやってきたことで、少女を守ることが使命となります。
オランダの首相:ハンスは、嵐で堤防が決壊するかもしれない可能性を目の前にして、緊急避難声明を出すかどうかで迷っていました。
そんな中、ハンスの妻が施設にいる父親を引き取って別荘に避難するところを写真に撮られ、それが拡散したことで、人々が避難した方がいいという判断をして移動のため町が大混乱に陥ってしまいます。
あなたならどうする?
ハンスの妻が父を置いておけないからと一緒に避難したい気持ちは、わからなくもない。それによって生じるであろう混乱を予想できなかったにしても、軽率な行動だったのでは?と感じてしまうのは冷たいだろうか?
そして、嵐が近づき大雨が降っている中、ソニアの娘フェンケは外で遊びたいと駄々をこね、イライラしながら娘に外で遊ぶ許可を出してしまうソニア。
子供が言うことを聞かないイライラの中、面倒だからもう好きにすれば、と言っちゃうことはよくありますよね。違う?
でも、嵐が近づいていて、自分の家は湖のそばだという条件を考えたら、外で遊んでいいと許可するのは軽率すぎないですかね?ほら!そうなっちゃうじゃん、と娘は流れてきた水にさらわれてしまうんですよ。
また、ロベルト一家は、車で別荘に避難しようとしていたが、タイヤが泥にはまって動かなくなり、やむなく徒歩で非難することになるんですね。
いつの間にか、父と娘一人、母と娘一人の二手に分かれてしまいます。母と娘は、川を進んでいるボートに助けられ、その少し後に父ともうひとりの娘が歩いているのを見つけ、二人もボートに乗せてくれるよう頼むけど、定員オーバーで乗せてもらえませんでした。
母は断腸の思いだったと思います。だけど、ボートを管理している人にしてみれば、やむを得ない判断だったと思うんですね。ここは辛い。
よく心理テストにも、そんな例があったりしますよね?母は、自分の替わりに娘を乗せてほしいというべきか?でも、岸まで距離があってそれも言いにくい。うーん、実際にこんなことになったら、もはや判断力さえ失くしてしまいそうです。
人は誰かを守るために生きている
小学生のキリーは、働く母親と二人暮らし。大雨が降る中、母親の迎えがなく、ひとりで自転車で学校を後にするものの、途中で動けなくなりヴァイオリニストのステインの部屋のドアをたたき、入れてほしいと頼みます。
ステインは、まさに自分で死のうとしていたところ。思いがけない訪問者があって、とりあえず思いとどまります。
キリーが母に電話をして老人の部屋にいることを告げると、母から「私の仕事が終わるまで、どうぞ娘をよろしくお願いします」と頼まれます。
今、死のうとしていたけど、小学生のキリーをほおっておくことはできません。ステインは、多くは語らないけど、できる限りのことをしてキリーを守るんですね。
それはきっと、生きることに対して絶望していたステインの生きる理由になっていたに違いありません。人は、誰かに必要とされることが、生きている大きな意義になっていると思うんですね。
暖炉の火を利用してとても楽しそうに二人でパンケーキを作るシーンがあって、その時はもうステインの頭に「死のう」という気持ちはなくなっていたはず。
本人に自覚はないだろうけど、キリーは助けてもらったかのようでいて、実はステインを助けたってことです。
嵐の後の人々
災害を題材にしたパニック系映画は、災害を乗り越えたところで大体終了になっちゃうけど、今作は嵐の後の、それぞれが人生を考え直したり、新しい道を見つけるところまで描いているところが興味深いんです。
ソニア一家は、刑務所から逃げてきた夫に刑務所へは戻りたくないから一緒に逃げようと提案され、一度はソニアも夫に従おうと思うものの、息子のことを考えて思いとどまります。
モラハラな夫に対して、なんとなくおどおどしていたソニアだったけど、息子の将来を考えて毅然とした態度で夫に向かう姿には拍手を送りたくなりました。
そして、ロベルト一家の娘たちは、苦難を乗り越えそれぞれに進むべき道を自分で見つけます。
残された母は、現実から逃げるかのような、見ないふりをするかのような態度なんだけど、愛想をつかしていたし、愛人と新たな人生を送ろうと思っていたロベルトが妻を支えることを決意します。
それって情なんでしょうかね?災害を共に乗り越えたことで連帯感は生まれたかもしれないけど、少し落ち着いたら、あー俺は彼女のこういうところがイヤだったんだよな、と思い出してまた別れたくなるかもしれないけどね。
そして首相は・・
もうひとつの見どころが首相とその側近たちの様子。首相は妻が父と避難したことで、避難されるわけです。でも、妻は「私は自分の行動が間違っていたとは思っていないから謝らない」と言います。
まあね、自分が悪いと思っていないなら謝る必要はないけど、首相の妻という立場だし、自分の行動によって混乱が起きたことは事実なんだから、それに対する謝罪はあってもいいんじゃないの?とは思いますけどね。
災害に対してEUからオランダとベルギーに対して総額2000億ユーロの支援が出ることになり、どちらも自国に有利な条件で相手と交渉したいわけで、これがオランダとベルギーの首相同士の駆け引きのネタになります。
そんな時、オランダの首相ハンスが過労でダウンし入院。
ハンス不在の中、副首相の女性がベルギーと交渉にあたるんだけど、結果としてはハンスが望んでいない結論で合意してしまいます。
この副首相がなかなかのやり手なんだけど、闘志や向上心、野心バリバリ。成功するために闘志や野心は不可欠だと思ってはいるけど、それだけしか持ち合わせていない場合、例え成功しても転落も早いような気がするんだけど、どうかしら?
だけどハンスは、病院のベッドの中にいても国民のことを考えています。ベルギーとの合意に至ってしまったあとも、それを覆す国にとって最善の案を考えます。
まとめ
冬のオランダが舞台なので寒々としているし、テーマは重いドラマだけど、最後まで観れば人生って悪いことがあっても必ずいいこともある!と思えるラストが待っています。
個人的には、モラハラ夫と決然と戦ったソニアを応援したくなったし、死のうと思っていたステインがキリーを母の元に帰した後も、別の人生を切り開いていってほしいと思ったし、ロベルトの娘たちがそれぞれに見つけた自分の道で幸せになってほしいと願いました。
人生って長いから、今は幸せでもいつなんどき災難が降りかかってくるかわからない。だけど、災難が降りかかってこようと生きていなくちゃならないわけで、辛かったとしても必ずそこから抜け出せる日は来る。
今は世界中がコロナウィルスの影響で混沌としているし、暗いニュースばかりだったりもするけど、メディアはもっと違う側面から明るいニュースも配信すべきだと思いませんか?
そんなこんなを考えながら鑑賞したドラマでした。
オランダ制作ドラマ「Swell堤防が決壊するとき」はU-NEXTで配信中。