狂おしくも切ないラブストーリーは苦手ですが、ソマリアに潜入するMI6諜報員のジェームズと深海に潜る生物数学者ダニー、という設定に惹かれて観てきたのが、ドイツ・フランス・スペイン・アメリカの合作映画「世界の果ての鼓動」
やっぱりラブストーリーは苦手だな、と思いましたが、二人が出会ったノルマンディーの海岸や風景は見事に美しかったです。
映画は、複雑に状況が入り乱れるし、二人の設定も身近にある職業や環境ではないため、ちょっと難しいし、好みは分かれるかなと感じました。
長編監督としてまもなく50年を迎えるヴィム・ヴェンダー氏の作品は、残念ながら今まで観たことがないのですが、その独特な作風にはファンも多い様子。
70歳を超えても狂おしいラブストーリーが作れちゃうって、やっぱり芸術家は感性が豊かなんだろうなぁ~なんて思いつつ観ていました。
それでは、映画「世界の果ての鼓動」の感想を綴ってみたいと思いますが、ネタバレしていますことをご了承くださいませね。
Contents
作品の概略
フランス・ノルマンディーの海辺にあるホテルで出会ったダニーとジェームズは、わずか5日間で情熱的な恋に落ち、互いが生涯の相手であることに気付くが、生物数学者であるダニーにはグリーンランドの深海に潜り地球上の生命の起源を解明する調査、そしてMI-6の諜報員であるジェームズには南ソマリアに潜入して爆弾テロを阻止する任務が待っていた。
互いの務めを果たすため別れた2人だったが、やがてダニーは潜水艇が海底で操縦停止となる事態に遭遇し、ジェームズはジハード戦士に拘束されてしまうという、それぞれが極限の死地に立たされてしまう。
「パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩」の巨匠ビム・ベンダース監督、「リリーのすべて」のアリシア・ビカンダー、「X-MEN」シリーズのジェームズ・マカボイ主演による恋愛サスペンス。
映画史に永遠に刻まれる傑作を世に送り出し続けるヴィム・ヴェンダー監督が、まもなく長編監督として50年を迎え。そのヴィム・ヴェンダー監督が、壮大な映像美とエモーショナルなストーリーで完成した傑作が、この「世界の果ての鼓動」
キャスト
MI6諜報員ジェームズ
ジェームズ・マカボイ
1979年、スコットランド出身。「X-MEN」「ミスター・ガラス」「IT」等、出演作多数。
今作で役作りのために減量したジェームズ・マカボイ。
ソマリアに潜入する前に休暇で訪れたノルマンディーの海岸でダニーと出会い、ランチからの一夜という速攻な展開で恋に落ちます。
でもね、ジェームズは控えている自分の使命に対し、ダニーとの関係に踏み込む躊躇も若干あったはず。ただ、その一瞬の躊躇も欲望に押し流されてしまったのかな。
ソマリアに着いた直後に囚われ、光のない部屋に監禁され、常に死の恐怖と隣り合わせ。
そんな中、ジェームズの生きる希望はダニーとの再会にあったはず。心を失わないよう、自分の気持ちが死に向かわないよう戦っている先には、常にダニーの面影が。
生物数学者ダニー
アリシア・ヴィキャンデル
1988年、スウェーデン出身。
「コードネームU.N.C.L.E」「リリーのすべて」「トゥームレイダーファースト・ミッション」等出演作品多数。
とっても美しいんです。でも、役柄はプロフェッサー(教授)ですが、どちらかというと女子学生のような印象。
「professor」は、英国では大学の最高位の教師に使うとも書いてあったので、個人的にはもうちょっと年齢が上の女優さんの方がよかったかな。
きっとね、最初にジェームズと一夜を共にしたときは、それほどの思い入れはなかったように思うんですね。
でも、時が経つにつれ自分の意思ではなくどんどん惹かれてしまった、という感じ。
だけど、そうなってしまったことで、ジェームズと別れて仕事に戻っても、心ここにあらずで、仕事に身が入らず、研究の相棒からも釘を刺される始末。
これって、女性なら年齢を問わず、誰にでもあることだと思うんですね。恋愛は、自分の意思とは関係なく、気づけばプライオリティトップになっちゃう。
ざっくりあらすじ
ノルマンディーの海岸で出会い、同じホテルに宿泊していたジェームズとダニーは恋に落ちるも、滞在たった5日の短い恋路。
ジェームズはソマリア潜入という任務、ダニーは深海調査のため潜水艦での探索が待っています。
後ろ髪をひかれる思いで、二人は別れ、それぞれの仕事へ。
ジェームズは、小型飛行機でソマリアに到着後すぐ、ジハード戦士に拘束されてしまったため、ダニーに連絡を取ることができなくなります。
一方、船上にいるダニーは、スマホを手にジェームズからの連絡を待っているものの、1か月たっても連絡がなく、仕事も手に尽きません。
長期にわたる拘束、いつ殺されるかわからない中、ジェームズの希望はダニーとの再会。
苦しい状況になっても、それをつぶやきながら乗り越え、心ある戦士に助けられたりしながら生き永らえます。
一方、仕事に身が入らなかったものの、無事潜水艦は海底の探査を実行するに至り、途中、トラブルに見舞われながらも成功させるダニー。
さて、二人は再会することができたのでしょうか?
感想
その1 始まりはラブストーリーだったけど
映画は二人が出会い、恋に落ち、仕事へと向かわなければならないため、再会を思いつつの切ない別れ、というラブストーリーから始まります。
だけど、ジェームズの過酷な拘留、ソマリアのジハード戦士たちの活動などが多くの時間を割いて描かれているため、ラブストーリーを観ているという感覚は薄くなります。
ダニーとホテルのバーで話をしていた時、ジェームズは「深海を研究する意味は?」みたいなことを訪ねます。
すると、ダニーは「光が届かず光合成ができない深海でも、生命が存在し繋がっていることを証明し、多くの人に知ってもらいたい」と答えます。
そして、そんなダニーにジェームズは、テロの記事が掲載されている新聞を見せ、どう思うか聞くと、わからない、というダニーの答え。
それに対して、イラッとした様子で、こうしたこともおかしいのだから、おかしいということを説明して、世の中に広めなくちゃいけないのは、ダニーがやっていることと同じだ、と熱弁します。
ジェームズの気持ちはわかるけど、ダニーにしてみれば、ジェームズの本当の職業は知らず、水の技術者と思っているのだから、何言っているの?って感じなわけです。
その2 冒頭のふたりの時間にそれだけの尺が必要だったのか?
ジェームズとダニーが出会って恋に落ち、それぞれが仕事に戻るために別れる場面まで、かなりの尺が割かれています。
だけど、個人的にはその必要はあるのか?と、少し疑問にも思いました。
それがヴィム・ヴェンダー監督作品の醍醐味、と言われてしまえば、そこを私が理解できなかった、ということなんだけど、ラブストーリーが苦手な理由のひとつが他人のイチャイチャを見なきゃいけないこと。
そりゃあ、ストーリーの中での盛り上がりでキスもあれば、それ以降の関係に発展するのも自然な成り行き、ってことは理解してますよ。
でも、物語を進めるうえで、そこはいらんでしょ、という無駄なイチャイチャが多いと常に感じるため、ラブストーリーは苦手なんですね。
今作もノルマンディーの海岸風景は、うっとりするくらい素敵だったけど、寒いのに二人で服のまま海に入っちゃうとか、必要だったのかなぁと。
早く先に進みたいなぁと思いつつ観ていました。
その3 ジェームズの過酷な拘留生活
飛行機を降りたってすぐに拘留されたジェームズ。窓もなく石で囲まれた部屋は、そこにいるだけですでに拷問のような酷いところ。
食事もアルミのお盆にパンと何かが乗せられ、しかもそのお盆を投げてよこします。絶望しかない感じ。
ジハード戦士たちにとって、アラーこそが神であり、全てです。ジェームズにも改宗しろ、と言ったりしていました。
神を信じてあがめているのに、街で女性を公開処刑したり、それを止めようとした子供を撃ったりと、特別に信仰のない私にしてみれば、信じている神はその行為を許すのですか?神って何?と憤りを感じます。
海辺に銃を持って戦士が並び、ジェームズは彼らを背にして海に入っていくシーンがあります。
一斉に発砲する戦士たち。でも、ジェームズは助かります。何故助かったのだろう?だとしたら、このシーンに何の意味があったんだろう?と不明のまま。
ただね、緊迫したシーンなのに、海や海岸はべらぼうに美しいんですよ。だからこそ、人に平気で銃を向ける人間の醜さ、身勝手さが際立ちます。
美しい自然こそ、神が人にもたらしたギフトですってば。
その4 深海に到達したダニーのトラブル
いよいよ、何年も願っていた思いが現実になる瞬間を迎えたダニーですが、ジェームズと連絡が取れないことで心は不安定になっています。
もしかしたら、私も無事に戻ってこれないのでは?という思いにとらわれがちになっています。
それでもたくさんの人の協力があって、小さな黄色いサブマリンは海底へと降りていきます。
実は私、水中も閉所も苦手。あんな狭いところに入って、更に海に潜っていくだなんて、もう死んだ方がましです。
どんなに珍しい生き物が見られると言われても、世界でひとりだけの最初の発見者になれると言われて、全く心は動きません。
それほどある意味、過酷な状況下での研究と思います。
それが、海底に到着し、無事サンプルも採取したところでいきなり電源が全て落ちてしまいます。パニッ―――――ク!!!ですよ。
でもね、ほどなく電源は回復して無事サブマリンは浮上し、ダニーは名誉と共に船上へ戻る途中でThe END。
その5 ジェームズとダニーは再会できたのか?
ダニーは無事、船上へと浮上する途中、ジェームズは海に飛び込んで目を開けたところで映画は終わっています。
その後二人がどうなったかは、観ている人の想像にお任せします、という演出なのでしょう。
映画的に考えれば、ノルマンディーのホテルで再会して乾杯!かな。
個人的には、仕事も環境も大きく違う二人は、ノルマンディーの美しい思い出を胸に、それぞれの道を歩んだ方がいいと思っているかな。
まとめ
ラブサスペンスというよりは、人間ドラマだったように感じます。
二人のラブストーリー、ソマリア問題、海底探索、と盛りだくさんに広がっているため、ここが見所!と特定しにくい映画です。
その中でも、ジェームズの拘留生活やテロについて割かれていた時間が長かったため、どうしても印象はそこに残りがちです。
解釈は観ている人によって大きく異なる映画でもあるでしょうし、それが制作陣の狙いかもしれません。
原題は「潜水」を意味する「Submergence」。「水」がひとつのキーワードになっている映画でもあったかも。
ジェームズが熱弁していた「おかしいということを説明して、世の中に広めなくちゃいけない」という言葉。これは心に残りました。
何が正しくて、何が間違っているかは、それぞれの価値観もあるでしょうが、人の命が尊いという教育が必要なことは世界共通なはず。
子どもが安心して暮らせる世界が訪れますように。