ロバート・レッドフォードの俳優引退作として上映されている「さらば愛しきアウトロー」を鑑賞してきました。
1936年生まれのロバートさん、2019年には83歳ですものね。運び屋で麻薬を運んでいた実在の人物:レオ・シャープを演じたクリント・イーストウッドも80代、先日引退宣言をしたフランスの俳優:アラン・ドロンも80代。

海外の著名な俳優陣のひと時代が、終わるってことなんですかね。
オフィシャルサイトにある「ロバート・レッドフォードの出演作で何が印象に残っていますか?」という質問には、「明日に向かって撃て」「追憶」「スティング」という意見が大多数を占めていました。
「明日に向かって撃て」は、ロバート・レッドフォードがブレイクした作品ですし、「スティング」はアカデミー賞作品賞など、1973年度最多7部門を受賞した名作ですしね。
子どもの頃、日曜日に「日曜洋画劇場」という洋画ばかりを放送するTV番組がありましてね、それで数々の作品を観て、洋画の世界観に激しく憧れていました。
多分、上に挙げた作品3本も見ているとは思うのですが、あまり記憶にはなく、個人的には数年前にレオナルド・ディカプリを主演でリメイクした「華麗なるギャツビー」と、ブラッド・ピットとの共演作「リバーランズスルーイット」が好きです。
それでは、長年に渡り記憶に残る素晴らしい作品への出演に敬意を表して、「さらば愛しきアウトロー」のあらすじと感想を綴ってみたいと思います。ネタバレしておりますことをご了承くださいませね。
作品の概略
ハリウッド屈指の美男俳優として人気を集め、「明日に向って撃て!」や「オール・イズ・ロスト 最後の手紙」など長年にわたり活躍してきた名優ロバート・レッドフォードが俳優引退作と公言している最後の主演作。
1980年代初頭からアメリカ各地で銀行強盗を繰り広げ、それによる逮捕と脱獄を繰り返した実在の人物フォレスト・タッカーを描いた。
強盗といいながらも、発砲もしなければ暴力も振るわないという紳士的で風変わりな犯行スタイルを貫いた主人公タッカーをレッドフォードが演じ、タッカーを追う刑事ジョン・ハント役を「マンチェスター・バイ・ザ・シー」のケイシー・アフレックが担当。
そのほか、シシー・スペイセク、トム・ウェイツ、ダニー・グローバーらが共演。監督は「A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー」のデビッド・ロウリー。
ざっくりあらすじ
テキサス州の銀行の窓口で、女性がカバンを抱えた老人に対応しています。スーツを着たその老人は、ゆったりとした足取りでカバンを下げて銀行から出てきます。
がっ!その老人は銀行強盗。
1980年代初頭、アメリカに実在したポケットに入れた拳銃をチラリと見せるだけで、誰も傷つけることなく銀行強盗を繰り返していた74歳のフォレスト・タッカー。
窓口で対応していた女性は、老人が銀行強盗だったことを知っていますが、その場にいた他の人たちは、目の前で強盗がお金を盗んでいったことなど誰一人気づきません。
銃をぶっ放すこともなく、「静かにしろ!」と脅すでもなく、人質を取るなんてこともしません。
でも、それで銀行から現金を強奪することができるのか?と思うけど、フォレスト・タッカーは何度も同じ手口で成功しちゃってるんですねぇ。
ある時は、犯行現場に刑事のジョン・ハントが子供ととも居合わせたものの、それでも気づかずにフォレスト・タッカーは、まんまと現金を奪って逃走。
彼を追いかけるパトカーをしり目に、車から降りてエンストして困っていた女性を助けるふりをしてパトカーを巻き、その上、その女性:ジュエルと仲良くなるという色男っぷり。
刑事:ジョンは、フォレスト・タッカーの娘に会いに行ったり、今までタッカーが起こした数々の事件を調べたりしているうちに、タッカーに惹かれるようになっていきます。
実際にタッカーが初めて犯罪に手を染めたのは、13歳の時の自転車泥棒。そこから犯罪を繰り返しては、投獄され、脱獄が16回。
ネタバレあらすじ
その1 事実との違い
主役であるフォレスト・タッカーは、銀行強盗を生業としているのに、犯罪の臭いやら、デンジャラスな香りやらはあまり感じないし、逃げる追いかける的なハラハラ感は全くありません。
途中、車で逃走しているシーンもありますが、高齢者の事故が増えている昨今、大丈夫か?と、そっちの方にドキドキしちゃいましたけどね。
鮮やかな手口で銀行強盗を重ねていても、体力や気力は衰えるだろうから、走って逃げればまず捕まりますよね。もしかしたら、窓口でのセリフを間違えて、トンだ失敗をしでかすかもしれませんし。
自分では若い頃と同じと思っていても、じわーっと全てに老いはまとわりついてくるものですから。
「黄昏ギャング」と世間で言われ、フォレスト・タッカーをリーダーとした3人グループの老人たちも、遂にFBIに追われて捕らえられます。
刑務所に面会に来たジュエルにタッカーが見せたのが、16回の脱獄を克明に記したメモ。
そこにはNO.17と書いてありましたが、ジュエルがそれを見て「最後までここにいたらどお?」と言うんですね。そして、タッカーは脱獄することなく、最後まで務め釈放されます。
ただ、実際のフォレスト・タッカーは、1999年に起こしたテキサスでの武装強盗の罪で、2000年に13年の刑を受けてから4年目の2004年、獄中にて83歳の生涯を閉じたそうです。
その2 何故、犯罪を繰り返すのか?
タッカーは、ジュエルに「人生は楽に生きるのではなく、楽しく生きるもの」と語るシーンがあります。
ジュエルにブレスレットをプレゼントしようと訪れた店では、腕にブレスレットを着けてみたジュエルを店員が席を外した瞬間、店からそのまま連れ出します。
戸惑うジュエル。建物の外に出る直前、ジュエルがタッカーの腕を取って、店に引き返します。
その間、二人は言葉を交わしていません。両者の本意は?見ている側にゆだねられています。
タッカーは、ジュエルが何も行動を起こさなければ、そのまま逃走していたと思うんですね。それがタッカーの求めている「スリル」であり、「人生を楽しむ」ことなのかな?と。
ただ、ジュエルが引き返したことで、それに抗うほどのことでもない、という判断だったのでは?と思います。
タッカーにとって、犯罪も脱獄もゲーム。
釈放されてジュエルの家に身を寄せいていたタッカーが、ひとりで買い物に行き、外からジェルに電話をします。
ふと見ると、公衆電話の前に銀行が・・・。電話を切って、銀行のドアへ向かうタッカー。もう麻薬と同じです。
きっと、タッカーに必要なのは、投獄ではなくて、カウンセリングだったのかもしれません。
感想
フォレスト・タッカーという実在の人物が、映画の素材にするほど興味深い人物だったか?と言うと、私はそれほどでもないように思ったのですが、それをロバート・レッドフォードの引退作と掛けたことに大きな意味があるように思います。
ブレイクした「明日に向かって撃て」ではアウトローな強盗を演じ、銃を持っていながら決して人を傷つけない、アウトローな黄昏ギャングとして有終の美を飾る。長い俳優生活の道に、見事なストーリーが出来上がった感がありました。
フォレスト・タッカーにとって、犯罪は人生を彩る「楽しさ」そのものだったのと同じように
ロバート・レッドフォードにとっては、作品によって全く違う人物になりきる俳優も彼にとって、人生を彩る「楽しさ」に満ちていたのではないだろうか?と思いながら観ていました。
ジュエルに16回の脱獄について記したメモを渡すと、ロバート・レッドフォードが若かったころの写真が使われた脱獄の回顧録シーンが映し出され、ファンだったら感激するかも。
個人的には、それほどロバート・レッドフォードに思い入れはありませんが、もし私がもっと歳を取って、ブラッド・ピットピやジェイソン・ステイサムが同じようなことをしたら、おいおい泣いてしまうかもしれませんもの。
何事も始まりがあれば、終わりがあり、人生も必ず終わる日が来る、ということを実感した作品でもありました。あ・・誰も死んではいないけどね。面影はあるけど、さすがに歳を取ったな、と感じたロバート・レッドフォードを観て、そんなことを思いました。
俳優業は引退かもしれないけど、今作も製作に名を連ねていたロバート・レッドフォードは、今後も映画の裏方で私たちに夢を届けてくれることでしょう。
お疲れさまでした。