今のところ、日本での劇場公開はなく、Netflixの独占配信作品。しかも、モノクロ作品という異色映画がアカデミー賞候補作になったと知って興味が湧き、観てみたのが「ROMAローマ」レビューの評価も非常に高い作品です。
アメリカとメキシコの合作で、メキシコ出身の「ゼロ・グラビティ」を手掛けたアルフォンソ・キュアロン監督によるもの。
私は、映画を観たあとに当時のメキシコについて調べてみたのですが、先に知っていたらもっと面白く観られたかもしれないと感じました。
なので、調べたことも含めた感想を書いてみようと思います。ネタバレ含むあらすじ&感想になりますので、ご注意くださいね。
あらすじ
あらすじにネタバレ含みますのでご注意ください!
ローマという町に住んでいる中流階級の夫婦と4人の子ども、家政婦2人の生活を描いています。幸せに暮らしていた夫婦に、夫の浮気が発覚。家政婦のクレアは、付き合っていた彼との子供を妊娠。
夫は家に帰ってこなくなり、クレアの彼は妊娠を告げられた時、言葉では祝福するも即座にとんずらし、連絡が取れなくなってしまいます。
クレアが探し出して再会したとき、彼は口汚くののしり、「召使いごときが近寄るな」と捨て台詞を残し逃げていきます。残されたクレアは、ひとりで出産することを決意するも死産に。
一方、夫が帰ってこなくなったことで、新たな出発を決意する妻は、子供たちとクレアを連れてバカンスに出かけ、そこの海で子どもが溺れかけたのを助けたのが、泳げないと言っていたクレア。
日常生活を淡々と送る中でも予期せぬ出来事が起こり、それらに対処しなければならず、しかも世の中の変化にも対応していかなくてはならない日々を描いています。
感想
長いプロローグから、すでに監督のこだわりが感じられる作品でした。カラー映像になれていると、モノクロで楽しめるだろうか?と最初は思ったものの、それは激しい思い込みと反省。
この映画は、モノクロだからこそ、観ながらいろんなことを考える気持ちの余裕みたいなのが生まれたような気もするし、メキシコの強烈な青い空がカラーで視覚に入ってきていたら、もしかして感想も変わっていたかもしれません。
淡々とした日常なんだけど、メキシコの経済格差による不満からの暴動に巻き込まれる恐怖、突然訪れた出産の兆候で病院に担ぎ込まれる不安、そんなときもクレアは決して口数が多くありません。
だけど、モノクロ画像からクレアが何を訴えているかが感じられるような気がしました。
派手なアクションや、CGを駆使した映像に慣れきっていると物足りなさを感じる人もいるかもしれないし、そう言っている私自身も、映画.comのコラムを読まなければ、観ようと思わない作品だったかもしれません。
だけど、丁寧に描かれた家族の日常から、絆と愛情をしっかりと感じ取れる作品です。
軸になっているのは妻:ソフィアと家政婦:クレアの視点。どちらも身勝手な男に裏切られるけど、ののしったり罵倒したりせず淡々と受け入れ、彼女たちは逞しく変わっていくんです。
その中でふたりは、大げさに慰めたり、抱きしめあって号泣したりということはないんだけど、お互いを信頼しあい、しっかりと助け合っている姿を感じます。
ソフィア一家が住んでいる家の構造が特殊で、その家が舞台になっていることも映画の見どころのひとつ。夫が帰ってくると、大きな門を開けて車を玄関ドアの前まで入れるのですが、これが絶妙なテクニックを必要とするものすごくタイトなギリギリの幅。
夫はこすることもなく見事なハンドルさばきで車を納める様子が、車のフロント前方からのカメラワークで見せています。
でも、夫の浮気が発覚した後、同じカメラの位置からソフィアが車を門の中に入れようとするのを撮っていますが、これが酷い!擦りまくりのぶつけ放題。ここにソフィアの気持ちが表れているように思いました。
だけど、夫の浮気というストレスから解放されたのかも、と感じたのが、車庫幅いっぱいだった夫が使っていた車を売り飛ばして、軽快に車庫入れができるサイズの車に乗り換えたとき。
車を買い替えたという事実に、ソフィアの気持ちの変化を感じましたね。ほら、失恋すると髪を切る、的な?
その新しい車でソフィアと4人の子どもたち、そしてクレアも一緒にバカンスに出かけます。そこで子どもが波にさらわれるというアクシデントに見舞われるも、クレアが助け、家族とクレアの絆が更に強まったことを感じます。
決して口数が多くはないクレアが、その時「生まれて欲しくなかった」と妊娠したときの気持ちを告白します。その告白で、ソフィアに対する信頼感と愛情を知ったような気がしました。
男性監督の作品だけど、男は身勝手!女は逞しい!ということを強烈に感じた作品でした。ラストシーンが明日への希望に満ちていてよかった!
メキシコを感じてみよう
舞台は1960年代から70年代のメキシコシティ・ローマという町。ハワイやロスに行ったことがある人は多くても、メキシコとなるとぐっと少ないだろうと思うんですね。
時代は違えど、モノクロで映し出される家族の様子は、リアルなメキシコの生活が描かれているので、日本とは様々に異なる風景や家庭の営みからメキシコの匂いが感じられる気がします。
1950年代から1970年代までの間メキシコは、文民統治体制を維持しながら「メキシコの奇跡」と呼ばれる高度経済成長を達成し、1968年にはメキシコシティオリンピックを開催。
しかし、経済発展による格差の拡大や、アメリカに比べると自由が制約されたメキシコに不満を持つ者が現れ、強制的な弾圧が進んでいた頃。
そんな背景の中で生活する家族の様を描いているので、事前に知識があったら、映画が更に興味深く観られたかな、と後になって感じました。
カンヌで披露されなかったのは何故?
この映画は、2018年5月のカンヌ映画祭でお披露目の予定だったそうですが、実はカンヌ映画祭では「出品作は、すべてフランスで劇場公開されなくてはならない」となっているため、残念ながら「ROMAローマ」がカンヌ映画祭でお披露目されることはありませんでした。
その後、第75回 ベネチア国際映画祭(2018)作品賞の金獅子賞を受賞し、第76回 ゴールデングローブ賞(2019)の最優秀作品賞(ドラマ)にもノミネートされています。
映画にまつわる賞は、各国いろいろありますが、「ROMAローマ」はどの賞レースでも異色作品として話題沸騰。映像の芸術性でも高く評価されています
Netflix独占配信の理由
何故、劇場配信されず、Netflix独占配信になったのか?ということについて、映画.comの編集長がコラムに綴っていました。
音楽・音響も素晴らしい。まさに「映画館で見るべき一本」なわけです。「何で劇場公開しないの?」という私の疑問は解けず、「Netflixオリジナルである意味が分からない」という結論にいたりました。
後で、監督とプロデューサーのインタビューを読んだら、「英語作品でなく(全編スペイン語)、俳優も無名でモノクロ映画だから、興行的には苦戦するだろう。もっとも多くの観客に見てもらうにはNetflixと組むのが最適と判断した」ということです。
これはズバリ資金調達のことを語っています。「Netflixと組むのが最適」イコール「他のスタジオから、彼らの望むレベルの製作費を調達するのは無理だった」ということです。
このコラムが「ROMAローマ」を観てみよう!と思ったきっかけになりました。詳細に綴られていますので、ご興味のある方は是非!
- ロサンゼルス
- ニューヨーク
- メキシコ
上記の都市では劇場で封切られましたが、日本では今のところ、予定はないものの、将来的にはもしかするとどこかの劇場で公開されるかもしれない、という噂も聞こえてきているので、しっかりわかったらお知らせしますね。