Netflixオリジナルのドイツ映画「ライジング・ハイ」を鑑賞してみました。
レオナルド・ディカプリオ主演の「ウルフ・オブ・ウォール・ストリート」のような成功と転落のストーリー。
「ウルフ・オブ・ウォール・ストリート」は、実話に基づいた株式ブローカーの話でしたけど、本作は不動産詐欺。
ハリウッド映画のような派手さはないものの、音楽や女性陣の衣装、ヴィクトル家のインテリア、細かい演出がおしゃれなところに魅力があると私は感じました。
それでは感想を綴ってみたいと思いますが、ネタバレも含みますことをご了承くださいませね。
作品概略
原題:Betonrausch
製作年:2020年
製作国:ドイツ
キャスト:デヴィッド・クロス、フレデリック・ラウ、ヤニナ・ウーゼ
監督:キュネイト・カヤ
脚本:キュネイト・カヤ
ざっくりあらすじ
金もうけのためなら手段は選ばないヴィクトル。相棒ゲリーと共に無からスタートし、不動産詐欺でぼろ儲け。
美しい妻を得て、子供にも恵まれたけど、2人の快進撃はいつまで続くのか?ヴィクトルの未来はいかに?
感想
1時間34分の短い時間の中で、サクサクと進んでいくスピード感が私は好きでしたね。
え?その手口、おかしくない?それ、バレないわけないでしょっ!不可能だって、そんなこと、という細かいことが気になるようだとイライラするかもしれないけど、父親からの教訓「笑顔は世界を征服する」を胸に、ゼロからにわかセレブに成り上がるヴィクトルのクレイジーな上昇志向を楽しむ作品です。
ヴィクトル少年期
少年期、両親が離婚して父親と一緒だったヴィクトルは、税金の支払いを待ってもらえない父親の姿を目の当たりにして「うちは貧乏なの?」と父に尋ねます。
「どうか支払いを待ってくれ、必ず払うから」というという父親の願いもむなしく、バッサリと断られ、このことが後のヴィクトルの行動にも影響していることがわかってきます。
子供のころの体験や、両親の考え方、家庭環境って、どんな子供でも影響を受けて育つだろうから、そこって大きな責任でもあるよなぁと感じます。
詐欺生活の始まり
大人になったヴィクトルは、大きな夢を持って父親からの「笑顔は世界を征服する」という言葉を贈られて自立します。
でもねー、大きな夢を持ってはいたけど、世の中思っていたほど甘くないな、ってことをすぐに実感するわけです。
そこでヴィクトルは悔しい気持ちをバネに、コツコツと一生懸命働いたわけじゃなく、文書を偽造し収入を偽った証明書を見せ、家賃3400ユーロの高級ペントハウスを借りて、その部屋である商売を始めます。
そこで知り合ったのが、相棒になるゲリー。
ゲリーは、一目でヴィクトルが気に入り、一緒に仕事をしないかと誘うんですね。見るからに胡散臭いし、素行不良なおっさんだし、組むのはやめといた方がいいんじゃない?
と思うんだけど、結果的にはゲリーっていい奴だったし、クレイジーだったのはヴィクトルの方。
ゲリーがヴィクトルを連れて行ったのは、女性たちの館。その館にいる女性たちは、みんないつでも黒のランジェリーを着ているんです。これがなかなか素敵。
決して色とりどりじゃない。いつでも誰でも黒一色です。そこに何か意味はあるのか?考えてみました。
真っ黒な仕事を象徴している、男の成功の陰にオンナありという匂わせ、所詮男女の仲なんてのは儚いものという意味、どれも正解のような気がしてきます。
脱線しましたが、なんとなく息があったふたりは、競売物件をオークションで購入して、不動産詐欺に手を染めていきます。
ゼロからスタートしたセレブ生活
不動産詐欺に銀行からの借り入れが必要となり、銀行に勤めていたゲリーの幼馴染ニコルが参戦。そして、ニコルとヴィクトルは恋に落ち、のちに結婚します。
ゲリーには妻子がいて、ヴィクトルびっくり!そりゃそうだよね、女性が商売をしている館のお得意さんで、どんちゃん騒ぎしてきたばかりですもん。
ヴィクトルは女性の館に連れていかれても、クスリにも最初は躊躇したし、女性からの誘いも好きな人がいるからと断るんですね。ここは、父親が愛情をもって育てた影響だったのかなと感じました。
品行方正な青年だったのに、巨額のマネーと成功体験がヴィクトルを違う人物に変えていってしまいます。
だけど、元からその素質はあったんだろうな、ということは、父親と税金支払いの交渉に行った場のヴィクトルの行動を思い出せば納得かも。
高級車を乗り回し、プール付きの豪邸に住み、ヴィクトルの生活は一変します。
だけど・・・
そうなったからこそ、心身を引き締めて生活しなくちゃダメですよー、と感じるんだけど、ますます二人は増幅していきます。
もっと!もっと!と思うんですかね。
まあね、もし自分が同じ立場だったとしたら、と考えると、気持ちを引き締めるなんてことできないかな?それでも、まさにバブル状態が怖くなったりすると思うんだけどなぁ
刑務所からのインタビュー
本作は、逮捕され刑務所の中にいるヴィクトルへのインタビューという形で、やってきたことを回想する形で始まります。
インタビュアーから「再犯するか?」と聞かれると、迷うことなくYES。刑務所に入ろうと、それよりも成功体験の陶酔感、巨額マネーの魅力に勝てないってことですかしらね?
原題はドイツ語の「Betonrausch」ですが、英語表記だと「Rising High」高みに上るとでも言いましょうか?ヴィクトルの上昇志向を表しているのだと思います。
不動産詐欺で成功を収めると、証券会社を買収し、必要な役者を揃えてパナマに銀行まで作っちまう始末。
もちろん、規模が大きくなればなるほど、危険も増すわけで、観ていてハラハラしてきます。
母への思い
少年時代、ヴィクトルが帰宅すると、キッチンには服装を整えつつ椅子に座っている見知らぬおっさん、そしてそいつに話しかけながら寝室から出てきたローブ姿の母。
多感な少年期に母の浮気現場を目撃しちゃうなんて、そりゃあまずいよね。どんな言い訳をしたところで、全ての責任は母親の油断にある。
ヴィクトルがどこか女性に対して距離があるように感じるのは、きっと母親への鬱屈した感情のせい。裏切られた、という思いはどうにも払しょくできない。
しかも、父から母へ贈るという形をとるために購入したべらぼうにお高いアクセサリーを、母の再婚相手がまるで自分が贈ったかのように母へ渡していたことを知り、烈火のごとく怒るヴィクトル。
まあ、怒るのは当然だけど、飛び出したヴィクトルを追ってきた母の言葉が「お金だけが問題でお父さんと別れたわけじゃない」って、そんな言葉しか出てこないんかいっ!思っちゃいましたけどね。
ヴィクトルの心の中には、母への愛情と求めても得られない渇望でヒリヒリしているんです。その思いが自分と関わる全ての女性に対してにじみ出ちゃう。
どんどん狂ったように詐欺行為を爆発させていくヴィクトルに、ニコルもついに堪忍袋の緒が切れて出て行ってしまいます。
破滅
ニコルが娘を連れて出て行ってから、全てが悪い方向へと流れが変わっていきます。
納税義務があるにも関わらず、入ったお金は全て使ってしまったヴィクトルは、少年期に父が悩ませられた税金に自分も追い込まれることになります。
「父を破滅させたヤツに破壊させない」と言って奔走するんだけど、遅きに失しましたね。
お金は入ってきて当たり前、自分にはその才覚があるからどんだけ使っても平気さ、と思っていたに違いないわよ、きっと。
だけど、神様はちゃんといて、悪い奴にはきちんと罰が当たるようになってるんです。バカヤローです。
茫然自失のところに警官が踏み込んできます。ヴィクトルの犯罪をチクったのはニコル。復讐だったんだと思う。
オンナを馬鹿にしすぎると、痛い目に合うよってことです。
ライオンが象徴したもの
ヴィクトルが家を購入したとき、ここにライオンの首とかあったら絶対かっこいいよね、とゲリーが言います。
そのライオンが最後まで本作では意味のある存在になっていたんだけど、胴体のない首から上のライオンは、ヴィクトルの実態のない仕事を象徴していたのかもしれないし、本質を見ずにうわべだけで生きている人生だったかもしれません。
まとめ
ヴィクトルとゲリーの犯罪を追及した作品ではないので、そこに関心を寄せると肩透かしを食らいます。
サラっと90分の軽い栄光と破滅への道を楽しむ感じで、鑑賞する作品かな。
日本でも数年前に不動産業務のプロが、地面師という詐欺師に騙された事件がありましたよね。あの時は、何故プロなのに?と思いませんでした?
でも、まるで映画のような話が現実にもあるってことです。
おいしい話には裏がある、ローリスクでハイリターンなんてのは存在しないし、楽してダイエットが成功しないのと同じように楽して儲かる話もない、と思っていた方がいいですよね。
オレオレ詐欺にも引っかからないよう、気を付けよーっと。