実話を基にした作品

映画「ホテル・ムンバイ」ネタバレ感想|衝撃的な実話に目が離せない映画だった

インドのムンバイで2008年に起きた同時多発テロ事件を基に描かれた映画「ホテル・ムンバイ」を鑑賞してきました。

衝撃の作品でした。

一時たりとも目が離せない、瞬きをすることすら忘れてしまうほどの迫力と緊迫感です。しかも、アンソニー・マラス監督は今作が長編映画デビューというから、更に驚きです。

123分という上映時間があっという間に感じられるほどの流れでしたし、見終わったときには、感動なのか、テロに対する恐怖なのか、事件が終息した安堵なのか、とにかく自分でもよくわからない感情が押し寄せて、涙が溢れてきました。

そんな気持ちにさせちゃう作品です。

実際に起きたテロ事件を扱った作品として印象に残っているのが、Netflixで鑑賞した「7月22日/22July」

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これもテロ事件の恐ろしさがものすごくよくわかる作品でしたが、今作は舞台がホテルなため、少し違った印象を持つと共に、「7月22日/22July」が単独犯だったのに対して、ムンバイ事件は複数犯なので、事件による様々な損傷の規模が大きく異なります。

ただ、単独犯だった「7月22日/22July」事件の方が、残念ながら犠牲者は多かったんです。

それでは映画の感想を綴ってみたいと思いますが、ネタバレも含まれておりますことをご了承くださいませね。

作品の概略

ざっくりあらすじ

2008年にインドのムンバイで起こった同時多発テロの際、タージマハール・パレス・ホテルがテロリストに占領され、そこに残された従業員とお客の救出を描いた作品。

レストランの料理長オベロイの「お客様は神様です」という言葉に従い、従業員たちは銃声が迫る中、命をかけてお客様たちを守り、誘導していきます。

数少ない警察官、特殊部隊は1,300キロ離れたデリーからやってくるという、もうダメかもしれない・・・と思う中、愛情と団結心と希望と情熱で助かろうとする極限の脱出劇が描かれています。

監督

監督を務めたのは、今作が長編作デビューというオーストラリア出身のアンソニー・マラス。

今作には「宿泊客と従業員が勇敢かつ感動的に団結し、最悪の困難を乗り越えたということ。」「文化的、人種的、民族的、宗教的、経済的な隔たりを超えて団結することで、より良い世界になるということ。」というマラス氏の思いが詰まっています。

映画を作りたいと思った動機は「ホテル従業員たちの驚くほど勇敢で機転が利き、自らを犠牲にしようとした行動に心を動かされたこと」を世の中に伝えたいと思ったからだそうです。

アルジュン:デブ・パテル

ホテルの従業員アルジュンを演じたのは、2008年の「スラムドッグ$ミリオネア」で主役を務めたデブ・パテル。イギリス出身、両親はインド系。

脚本も担当したアンソニー・マラスは、アルジュン役を100%デヴ・パテル前提にして書いたそうです。

「スラムドッグ$ミリオネア」のフィナーレであるダンスシーンはムンバイの駅で撮影され、数か月後に撮影した場所が今作の基になったテロ事件で襲撃されています。

テロ事件当時そこにいたわけではないけれど、デブ・パテルにとってムンバイ駅もテロ事件も忘れられない場所であり、出来事になったことでしょう。

ムンバイ同時多発テロ

この映画は、2008年におきた同時多発テロが基になっているので、少しその事件についておさらいしてみましょう。

2008年11月26日夜から11月29日朝にかけて、インドのムンバイで複数の場所が同時に銃撃・爆破され、多くの死者や負傷者を出したテロ事件です。

実際に標的となったのは、チャトラパティ・シヴァージー・ターミナス駅、5つ星ホテルのオベロイ・トライデントとタージマハール・パレス・ホテル、レストラン(レオポルド・カフェ)、カマ病院、ユダヤ教正統派のナリーマン・ハウス、メトロ・アドラブ映画館など。

実行犯は10名の若者で、内9名は亡くなり、パキスタンから支持をしていたと思われる首謀者は、未だに捕まっていません。

この事件で、ひとりの日本人も亡くなっています。

映画の舞台になった「タージマハール・パレス・ホテル」

インド3大財閥のひとつであり、イギリスの名車ジャガーとランドローバーを買収したタタ・グループが運営している一流ホテル。

この写真は事故直後(2008年12月に撮影)のホテル。画像引用元はWikipediaです。

1903年12月に開業し、1973年に高層タワーが建てられ現在に至っています。

テロ事件によりホテルの館内は激しく損傷し、火事による被害もあったものの、事件の3週間後には再開を果たし、その祝賀パーティの様子は映画にも登場していました。

感想

その1 実行犯は洗脳された若者たち

緊張感漂う男たちが乗った小さなゴムボートが、ムンバイの混沌とした海岸にやってきます。数人ずつに分かれてタクシーに乗り込み、それぞれの目的地に向かいます。

画像引用元:IMDb

プロローグもなくテロリストたちの物語もなく、すぐに駅での銃撃が始まります。

背負っているリュックの中から機関銃というのかしら?を組み立てて、むやみやたらに撃ちまくります。標的なんかありません。ひたすら撃ちまくり駅は地獄絵図。

中国人と西洋人のカップルが一休みをしていたカフェにもテロリストがやってきて、のんびりとしたカフェが駅と同じように一瞬で地獄絵図へ。

カップルは無事逃げ延び、向かった先が「ホテル・ムンバイ」。そこにはたくさんの人が避難しようと押し寄せていました。

だけど、残念ながら、ホテルもテロリストたちのターゲットになっていたわけです。

耳にイヤホンをして、指導者らしき男から支持を受けている実行犯たちは、全員が大人になりきっていないような若者たち。

指導者は、現場に赴かず遠方から支持をするだけの卑劣なヤツです。それでも実行犯の若者たちは、指導者の教えに洗脳され「神」という言葉に従います。

でも、若者たちは自分が実行犯になることで、家族にお金が支払われるという約束をしているんですね。

戦争やテロ行為は、宗教が絡んでいたり、歴史が絡んでいたりと、単純な動機ではないかもしれないけど、その大きな原因のひとつは「貧困」でもあると思います。

人が溢れているムンバイの駅と世界のVIPが集まってくるホテルを交互に映し出すと、そこにはえげつないほどの貧富の差が存在しています。

実行に加わった若者たちだって、もし何不自由ない暮らしができていたとしたら、危険を冒してまでテロ行為に加わらなかったかもしれません。

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テロではないけど、この映画もまた、貧困が根底にあるからこその問題を描いています。

その2 ターゲットは西洋人

その昔、インドはイギリスの植民地だった歴史があり、そのためイギリス文化の影響を受けています。

イヤホン越しに指示だけしている卑劣な指導者が度々口にしていたのが「異教徒に騙され、捕らわれて貧しくなった」という言葉。

これがイギリスに向けられている言葉かどうかは定かではありませんが、実行犯の若者たちをたきつける言葉になっていたことは確かです。

貧しいことの苦しさを誰かのせいにして、若者の怒りを煽り、銃殺を実行させるなんて、自分の欲望を遠くから満足させるだなんて、卑劣としか言いようがありません。

卑劣という言葉だけじゃ物足りません。ホント!とんでもなくひどい奴です。

そして、その犠牲になったのが、アメリカ人建築士のデヴィッド。

デヴィッドは、妻とまだ赤ちゃんの息子と乳母を連れてホテルを訪れ、スイートルームに宿泊します。

画像引用元:IMDb

息子を乳母に預け、妻のザーラとホテル内のレストランで食事をしている時にテロリストたちがロビーに押し入り占拠します。

デヴィッドもザーラもテロリストたちの人質になりますが、指導者からの射殺命令があっても、ザーラは西洋人ではなかったこと、コーランを唱えていたことで、どうしても実行犯の若者はザーラを射殺できませんでした。

それほど、信仰している宗教に対して忠実ということなんでしょうね。

無宗教ですし、苦しいときの神頼みをしたいことが生じた時くらいしか、神社仏閣を訪れない私には、到底理解できない世界です。

その3 お客様は神様です

ホテルのロビーをテロリストが占拠したとき、レストランの料理長オベロイが従業員たちを集めて「大変なことになったが、我々は団結してお客様を守らなければならない。だけど、それには危険も伴う。帰りたい人は今帰りなさい」的な話をします。

もちろん、家族が心配で家族を守ることが自分の使命、と考える人はそっとホテルを後にするし、それを後ろめたく感じることは全くないわけです。

オベロイ料理長も「帰っても恥ではない」とはっきり言います。いい上司です。「おまえら大変な時に帰るのかよぉぉぉ」と平然と言い放つ昭和な上司、日本にいそうですもんね。

何人かは帰宅するけど、大半の従業員が「お客様は神様ですから」と料理長の教えを胸に戦う覚悟を決めるんです。

でも、彼らにだって家族はいるし、守りたい人もいるはず。シフトが違っていたら、事件に巻き込まれなかったかもしれないし、違うホテルに勤務していたら巻き込まれなかったかもしれません。

運が悪かった、という言葉を使っちゃ不謹慎な気もしますが、予測できないことは「運命」としか言いようがありませんよね。バッドなアクシデントに見舞われたら、運が悪いわぁと思いますもの。

彼らももしかしたら、心の中ではそう思っていたかもしれません。でも、表情は実に精悍です。

お客様の部屋に電話をしてウソを言わせられていたフロントクラークの女性は、自分が付いたウソでお客様が射殺されることがわかり、実行犯の指示に従わず、殺されてしまいます。

もし、自分がフロントクラークの立場だったらどうするでしょう?

ものすごく辛い選択ですよね。その選択をしなければいけない自分も運命?なのでしょうか。むごすぎます。

その4 アルジュンのターバン

アルジュンが出勤する前、小さなスティック状の小道具を使って、頭に巻いているターバンを整えるシーンが出てきます。

私たち日本人にとって、インド人とターバンはイコールなイメージがありますよね?どうかしら?

カレーのパッケージがインドの人になっていると、必ずターバンを巻いていたような記憶があります。古いかしら?

でも、実際にはインドでターバンを日常的に巻く習慣があるシク教徒は、インドでも2%に満たないのだそうです。

シク教徒であるアルジュンは、ターバンを神聖なものとして外に出るときには必ず巻いているし、人の前では取りません。

だけど、負傷した女性を病院に運ぼう!ということになったとき、出血を止めるためにターバンをほどきます。

とにかく、アルジュンは家族思いだし、思いやりにあふれているし、人のために何かしてあげることを特別とは思っていないし、それに対しての見返りなんて考えてもいないんです。

その5 特殊部隊は1,300キロ

占拠されたホテルを救うための特殊部隊は、ムンバイから1,300キロも離れたデリーからやってくるんですよ。

1,300キロって、ものすごくざっくりですが、東京から九州が大体1,000キロで、北海道が1,300キロぐらいならしいです。

えーーーーーーっ!!

それを移動するのかっ!特殊車両とかも必要だろうし、武器も持ってこなくちゃいけないから、多分、移動手段は車ですよね。

ここが事件終息までに、時間がかかった大きな要因になっていると思います。

日本にも2015年にテロ対策として発足したERT(エマージェンシー・レスポンス・チーム)という部隊があり、日本語では「緊急時対応部隊」というんですって。ちょっとした豆知識。

まとめ

全ての人が、毎日幸せに暮らしたいと思っているはずだけど、事件とは想像もしなかったときに、思ってもいなかった形で巻き込まれてしまうものだと思います。

どんなに用心していても、全ての人が100%避けられるものではありません。

だとしたら、こうしてブログを書いていられる自分、映画を観てきた自分、ものすごく幸せなんだなと思います。

そして多様化している今の世の中では、自分の主張だけでなく、隣の人の考え方然り、見た目が違っても言語が違っても、歴史の中で軋轢があったとしても、まずは相手の言うことに耳を傾ける姿勢、否定から入らない姿勢が大事かな、と感じます。

テロ事件の映画だなんて、恐ろしいから観たくない、ではなくて、世の中にはこんな事件も起こったのだということを知るために見て欲しい作品でした。