雑誌で見かけて動画配信になったら是非観てみたい!と思っていたのが、日本では劇場未公開映画の「ある女流作家の罪と罰」
鑑賞いたしました。
まずびっくりだったのが、コメディ作品ばかりかと思っていたメリッサ・マッカーシーが、落ち目の女性作家を演じていて、これがすごくいい!
わびしさとか、切なさとか、孤独とか、そうした中で形成されであろうひねくれ感とか・・面倒臭いおばちゃんに仕上がっていて、コメディ女優のかけらも感じません。
人生って、きっと誰しも山あり谷ありなんだろうけど、人生後半の谷って切ないんですよ。
だけど、ラストシーンは切ないだけじゃなくて、ちょっと素敵に終わっています。
では「ある女流作家の罪と罰」へGO!あらすじはネタバレしていますことをご了承くださいませ。
Contents
作品の概略
2008年に女性作家リー・イスラエルが発表した自伝『Can You Ever Forgive Me?』を原作とした作品。
第91回アカデミー賞で主演女優賞、助演男優賞、脚色賞の3部門にノミネート。
かつてベストセラー作家だったリーは、今ではアルコールに溺れて仕事も続かず、家賃も滞納するなど、すっかり落ちぶれていた。
どん底の生活から抜け出すため、大切にとっていた大女優キャサリン・ヘプバーンからの手紙を古書店に売ったリーは、セレブからの手紙がコレクター相手に高値で売れることに味をしめ、古いタイプライターを買って有名人の手紙の偽造をはじめる。
さまざまな有名人の手紙を偽造しては売り歩き、大金を手にするリーだったが、あるコレクターがリーの作った手紙を偽者だと言い出したことから疑惑が広がり……。
女性作家「リー・イスラエル」とは?
ニューヨークのブルックリン生まれ。1961年にCUNYのブルックリン大学を卒業。
1960年代にフリーランスの作家としてスタートしましたが、1967年にキャサリン・ヘプバーンへのインタビュー記事を発表して注目を集めたことがきっかけとなり、伝記作家へ転身。
女優のタルラー・バンクヘッドやジャーナリストのドロシー・ゲリガンなどの伝記を発表し、ベストセラー作家に。
化粧品会社エスティ・ローダーの伝記も書いて発表したものの、どうやら出版社がエスティ・ローダーの許可を取っていなかったらしく、クレームになってしまったという出来事があったようです。
子どももなく、ひとり暮らしだったリー・イスラエルは、2014年12月24日に75歳で、骨髄腫によりニューヨークで亡くなっています。
「リー・イスラエル」の写真はニューヨーク・タイムズ電子版に掲載してありました。
キャスト
女性作家:リー・イスラエル
「ゴーストバスターズ」「SPY/スパイ」「ライフ・オブ・ザ・パーティー」にも出演しているメリッサ・マッカーシー。
個人的には、これも日本では未公開の映画ですが、「ライフ・オブ・ザ・パーティー」のメリッサ・マッカーシーが最高です!

でも、同じ人?と思うほど役柄のイメージはがらりと異なり、女優魂を感じます。
売れなくなって落ちぶれちゃったけど、プライドは高い。企画はあるのよ!と売り込みはするものの、周りの人々にとってリーはすでに過去の人。
仕事もクビになり、酒浸りの日々。プライベートの話し相手は、家にいる年老いた猫だけ。
口が悪く、酒癖も悪く、辛辣で性格もちょっとねじれた中年女性リー・イスラエルみたいなタイプがが、身近にいたら絶対イヤだけど、映像で見ているとかなり切なくなります。
とぼとぼと歩く脂肪の乗った背中に、たっぷりと悲哀を感じます。
友人:ジャック・ホック
「くるみ割り人形と秘密の王国」「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」などの出演しているリチャード・E・グラント。
ジャックも実在の人物で、リーが偽造したセレブたちの手紙を売る役割を担っていました。
これまたジャックもかなり強烈な個性で、猛烈にいい加減。きょうが楽しけりゃ、明日も楽しいさ!とは言ってないけど、その日暮らしの遊び人。
夜中にケガしてリーの家にやってくるわ、リーが留守の間、ゲイのジェックは、ちゃっかり目を付けた近所のカフェのボーイを連れ込んじゃうわ、とやりたい放題。
いつでもいい加減なのになんだかお茶目なジャックを、リーは徐々に信頼していくけど、猫の世話を頼んで留守番を任せていた間に、猫が死んでしまったことで、二人の間に亀裂が入ってしまうんですね。
人の関係って脆いですよね。
信頼関係を築くのは、とても時間がかかるけど、壊れるのは一瞬ですから。
ただ、相手のことが完全に嫌いになったわけじゃなくて、気持ちの中に存在が残っていたりすると、仲直りできたりしますしね。
ラストシーンでの二人のやり取りが、なかなかナイスです。
あるバーでのシンガー
ジャスティン・ヴィヴィアン・ボンド
ほんの数秒のシーンですが、リーとジャックがあるバーに立ち寄ると、生バンドの伴奏であるシンガーが歌っています。
その声とけだるいムードと抜群の歌声に一目惚れならぬ、一聞き惚れしました。
そこで、調べてみたところ、アメリカのシンガーソングライター「ジャスティン・ヴィヴィアン・ボンド」だろうことが判明。
作家、画家、パフォーマンスアーティスト、俳優としても活躍し、「最高のキャバレー芸術家」と称されているようです。
ヴィヴィアンさんの素敵な歌声は、インスタグラムで動画を見つけたので、下にリンクを張ってあります。
女性の出で立ちですが、トランスジェンダーのジャスティンさん、ものすごく魅力的な声をしています。彼ならではの表現力だと思います。
上の映像は、映画とは関係ありません。映画では本当に短いワンシーンですが、ここは是非チェックしてもらいたい!
あらすじ
その1 プライドが邪魔をする
リーおばちゃん、もう滅茶苦茶なんですよ。飲食禁止の職場で一杯ひっかけながら仕事をして、上司に悪態ついてクビ。
昔から知っている出版関係者:マージョリーのパーティに呼ばれ、企画の話を持ち出すが相手にされず、頭にきてクロークで勝手に人のコートを受け取り着て帰っちゃう。
家賃も滞納し、完全な金欠になり、マージョリーの事務所に乗り込んで、企画があるから前金を払え!と言うも、マージョリーからは「売れたら大口叩くのを許してあげるわよ!」と一括されちゃう。
ベストセラー作家という栄光があるから、プライドはエベレスト並みに高い。しかも、若くないから厄介なんですよね。と、私は思います。
マージョリーからは、清潔にしてお酒をやめて、キレイな服を着て、口の悪さを治して、もっと人の前に出るようになれば考えてもいい、みたいなことを言われたリー。
51歳、ホットでもセクシーでもない私にどうしろってのよっ!と。うんうん。わからなくもないよね。
50を過ぎると、変わることに対する怖さってあると思うんです。だけど、生活は苦しい。その板挟みで、もうリーおばちゃんは自暴自棄です。
その2 文書偽造への道
ひょんなことから、図書館で読んでいた本の中から直筆の手紙を見つけ、それを売りに行ってみたら、内容が平凡と言われます。
そこで、リーはタイプライターで追伸を加筆しちゃうわけです。すると、あら!高額で売れちゃった!ということで、有名人の手紙を偽造し始めます。
あらゆる種類のタイプライターを手に入れ(昔はタイプライターですから)、サインを偽造し、それぞれの有名人の個性に合わせて文章を考え、せっせと偽造手紙を生み出し、売っぱらっては稼ぎます。
有名人の手紙コレクターってのが世の中にはいらっしゃるんですね。日本なら、掛け軸や巻き物と同じようなものでしょうか。
思いがけず稼げるようになり、偶然出会ったジャックと飲み歩くようになります。
その3 ジャックと手を組む
最初は自分で作って、自分で骨董屋?みたいなところへ売り込みに行っていましたが、そのうち怪しまれるようになり、次にジャックが売りに行くようになります。
実際に偽造した手紙は400通ほどだったそうですから、大した量です。
作家だったリーにとって、偽造手紙はもはや自分の作品。愛情も思入れもたっぷりなわけです。売りに行った先でも評価は上々。
リーが書いたものではあるけど、世間的にはリーの作品でもなく、リーが評価されているわけでもないけれど、作家としての自尊心がある程度、満足させられていたのでは?と感じます。
だけど、上手い話が続くわけもなく、ある日、ジャックが売りに行った先で足止めをくらい、遂にリーの元にも捜査の手が及びました。
その4 裁判所にて
弁護士と共に裁判に臨み、執行猶予5年で実刑にはならなかったリー。その代わり、禁酒会へ通い、奉仕活動をして、その他に仕事以外は家から出てはいけない、という条件が付きます。
裁判所で裁判官から、今の心情を述べるように言われたとき、弁護士が用意した文言ではなく自分の素直な気持ちを吐露します。
それがね、ちょっとジーンときちゃうのよ。
人生も後半になってくると、若い頃のような明日を夢見る!みたいな気持ちは薄くなってくる。だけど、どこまで人生があるのかはわからない。
お金もない、友達もいない、頼る人もいない、そんな境遇の中で犯罪に手を染め、ジャックとつるんだことが、結果的にはリーに現実を見るきっかけになったんだな、と思いました。
ジャックも執行猶予付きの有罪となり、その後エイズで亡くなったそうです。
感想
いやー、いい映画でしたね。ただ、自分がもっと若かったら、あまり興味は持たなかったかもしれません。
自分もリーと近い年齢になっているからこそ、プライドが捨てられないとか、過去の栄光が邪魔をするとか、いろいろ言われたって変わるのイヤだし・・とか、面倒だし、やりたくないし、みたいな気持ちがよぉーくわかる。
だけど、人は素直な方が絶対に幸せになれる、とも思っています。
マージョリーのパーティーで、300万ドル稼ぐ売れっ子作家がちやほやされていて、そいつのことをマージョリーが「彼はラジオにも出るし、サイン会もする。言ったことは従ってくれる」みたいな評価をするんですね。
結局は、言いなりな奴がいいってこと?リーのような自己主張の塊は、売りずらい、商売しにくいってこと?と思っちゃいましたね。
そう言えば、少し前に作家VS出版社のSNS戦がありましたよね。発行部数をばらす、作家の印税が少ないことをばらす、でしたっけ?
なんかなぁ~と思いましたけどね。立場が違えば、思うところが違うのは当たり前。だけど大人なら、お互いに相手の立場を慮っていたいものです。
最近、自分調子に乗ってるかも。と感じている方にぴったりな作品かも。切なくなってみてください。