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実話を基にした「ヒルビリー・エレジー郷愁の哀歌」ネタバレ感想|ばあちゃんは強かった

Netflixオリジナルの実話を基にした「ヒルビリー・エレジー郷愁の哀歌」を鑑賞しました。

アメリカのディープな側面を見たように感じた作品だったかな。

薬物依存を扱う作品は数々あるけど、見れば見るほどものすごく一般的にフツーの人々にもある話だということがよくわかり怖い。

最近、映画館で上映される洋画がものすごく少ないので、ほぼNetflixだよりになっています。

では、牧歌的な作品かと思って観ていたら、全然違う。実話を基にした、強烈なばーちゃんと少年の物語です。

それでは、感想を綴ってみたいと思いますが、ネタバレも含まれますことをご了承くださいませね。

作品概略

原題:Hillbilly Elegy
製作年:2020年
製作国:アメリカ
キャスト:エイミー・アダムス、グレン・クローズ、ガブリエル・バッソ
監督:ロン・ハワード
脚本:ヴァネッサ・テイラー
原作:J.D.ヴァンス

原作者J.D.ヴァンスの自伝『ヒルビリー・エレジー』が基になっている作品。

「Hillbilly」とは、南部の山岳地帯に住む【いなか者、山男】に対する侮蔑的な呼称。

ロン・ハワード監督は、アポロ13、バックドラフト、ダ・ヴィンチ・コード、インフェルノなどを手掛けている。

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J.D.ヴァンス

オハイオ州の公立ミドルタウン高校を卒業後、アメリカ海兵隊に入隊。除隊後、オハイオ州立大学でBAの学位を取得し、その後イェール大学のロースクールで学位を取得。

イェール大学での最初の年に、指導教官であるエイミーチュアから、自伝を書くよう勧められる。

2016年12月オハイオ州に引っ越してNPO「Our Ohio Renewal」を設立。政治家を目指す準備を始め、ラストベルトに広がる薬物依存問題への対策を始める。

Wikipedeiaより

ざっくりあらすじ

イェール大学ロースクールに通うJ・D・ヴァンスは、インターンの面接中に故郷の姉から母が倒れたと連絡を受け帰郷する。

J・Dが幼い頃に経験した家族との葛藤、複雑な家族模様、薬物依存に陥った母の替わりに育ててくれた祖母。非行に走りかけたJ・Dを救ったのは、祖母の強い信念だった。

帰郷したJ・Dが見た母の姿とは?インターンの面接はどうなったのか?

感想

現在と幼い頃のJ・Dが交互に描かれていますが、全く混乱することなくとてもわかりやすく物語が進んでいきます。

大自然の中、のびのびと育っていくのかと思いきや、家族の複雑な事情や環境に飲み込まれていくJ・D。

家族という絆を重く感じ、愛されていることに疎ましさを感じるけど、愛されていることで救われるんです。

派手な演出はないし、サスペンス要素なんてのは全くないんだけど、ハラハラドキドキしながらJ・Dの行く末を案じながら観ちゃった作品でした。

日本人として生まれたけど、日本のことを全て知っているわけじゃないし、自分が交流している人々の暮らししか知らないわけだから、アメリカについてなんぞ全く知らないに等しいわけです。

こうした作品を鑑賞することで、アメリカで暮らす様々な人の暮らしぶりを垣間見たような気がしました。

そして、やっぱり怖いのは薬物依存。やっちゃいけないことは百も承知だけど、どうしても抜けられない、そして家族にも多大な迷惑をかけている、という事実がよくわかります。

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これも実話を基にした薬物依存の恐ろしさが伝わってくる作品。

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こっちは骨折がきっかけで処方された痛み止めがきっかけで、薬物依存に陥ってしまった青年の物語。

こうした作品を観るにつけ、薬物を流通させている奴らに対して無性に腹が立つけど、きっと薬物がなくなることはなく、依存症で苦しむ人がゼロになることもないと思うんですね。

だとしたら、自分で気を付けるしかない。1回だけなら・・・は甘い。1回は地獄への入り口です。

J・Dのばーちゃん

最後に実際の人たちの写真が流れるんだけど、まぁぁみんなそっくりなんです。本当のばーちゃんも作品の中でばーちゃんがかけていた少し大きい眼鏡をかけていたし、髪型もそっくり。

このばーちゃんは13歳で出産し、J・Dの母親はJ・Dの姉を19歳で出産したそうだから、J・Dが子供の頃のばーちゃんは多分40代後半から50歳くらいなんじゃないか?と思うんですね。

計算、間違ってないよね?

だとしたら、映画の中のばーちゃんはちょっと老け過ぎじゃないか?と思ったんだけど、どーですかね??

苦労してきた人生だったから、実年齢より老けて見えちゃうのかな。

でね、このばーちゃんがすごいヘビースモーカーで片時もたばこを手放さない。そして豪快。

優しいんだか怖いんだかよくわからない、言ってみればサバサバ系ですかね。だけど、薬物におぼれ次々と違うオトコに渡り歩く自分の娘(J・Dの母親)の元からJ・Dを救い出したのがこのばーちゃん。

やり方は実に荒っぽいんだけど、男の子のJ・Dにはそれぐらいで丁度いい、と私は感じます。

このばーちゃんがいなかったら、きっとJ・DはHillbillyのままだったと思います。

必死で勉強して留年するかもしれないと言われた成績を、数学でクラス1番になったテストを持って帰ってきたときも、ばーちゃんは大喜びはしません。

だけど、J・Dと離れたソファに座り、じっとそのテスト用紙を見つめるんですね。ばーちゃん嬉しかっただろうなぁと、ジーンときちゃうって

J・Dのかーさん

シングルマザーとしてJ・Dとその姉のリンジーを看護士をして育ててはいたんだけど、勤務先の病院で鎮痛剤を盗んで服用したことからヘロインに移行して薬物依存になっちゃうんです。

子どもたちは、母親の恋愛事情にも振り回されちゃう始末。

母親が恋愛しちゃいけないとは全く思っていないけど、それで子どもに何かしらの影響があるのは事実。

子どもを持った責任を踏まえて、自分の恋愛事情を考えないと後から痛い目を見ちゃうと私は思うんですけどねー。どうかしら?

子どもや母親には事後報告で籍を入れた男性の元に、J・Dを連れて引っ越したところ、再婚相手の子どもが結構なワルで、J・Dはその仲間に引き入れられちゃうわけですよ。

「おまえできないの?意気地なし」みたいなことを言われると、オトコとしてのプライドが傷ついて、やっちゃいけないこととわかっていてもやっちゃうわけだ。

そうして親が気づかないうちに、子どもは悪の道に・・ってことに。これ、ありがちだと思うんですね。

ある日、かーさんが勤め先の健康診断で尿検査をする必要があるから、J・Dの尿をくれと言ってくるわけ。

J・Dは断固として断るんだけど、ばーちゃんに「ママを助けてあげてくれ」と言われちゃう。大好きなばーちゃんに諭されたら、NOと言えない。

ばーちゃんだって悪いことだとわかっているけど、かーさんが失業したら困るわけですよ。

人の尿を検査に持っていくなんて絶対ダメだけど、いろんなことにおいて、貧しい環境にいるとトラブルが発生した場合の対処方法が限られてきます。

それが辛い。

ばーちゃんの名言

勉強せずひどい成績だったJ・Dにばーちゃんは「ちゃんと勉強しないとチャンスさえない」「クズと付き合ってたらクズになる」と言います。

悪の仲間が家の前にいるとロックなセリフで追い返し、J・Dには「あいつらの3年後は刑務所か生活保護」と言い放ちます。

J・Dは、一念発起して勉強したからこそ、イェール大学のロースクールで学位を取得できたわけだし、ラストベルトに広がる薬物依存問題への対策を始められるようになったわけですから。

実際はどうだったかわからないけど、ばーちゃんは生活が苦しくてもそれをJ・Dに愚痴ったりはしない。

優しいんだか怖いんだかよくわからないけど、持病があって苦しいときでも、食べるモノに困っていても自分ができることを精いっぱいやっていたように思います。

J・Dもそんなばーちゃんの姿を見ていたからこそ改心したんだろうなと。

愚痴ってのは、言葉にすればするほど自分は楽になるかもしれないけど、聞かされている周りは不幸になると私は思っています。

誰にでも悩みもあるし、辛いこともある。だけど、どうせなら楽しいこと、嬉しいことを人に聞かせたいじゃないですか。

ばーちゃんは、薬物依存の母を持ってしまったJ・Dを慰めたりもしないし、謝ったりもしないけど、J・Dが苦しいときはしっかりと抱きしめます。

ばーちゃん、強いんです。なんかロックです。しびれます。

帰郷したJ・Dはインターン面接に間に合うのか

インターンの2次面接が翌日の10時に決まったとき、J・Dは薬物の過剰摂取で運ばれた母親の病院にいます。

そのまま入院させてほしいという希望を受け入れてもらえず、同居していた男性からも追い出された母親の落ち着き先を探さなくちゃなりません。

姉のリンジーは、同居を拒否。

そら、そーだわね。自分の子どもたちへの影響を考えたら、薬物依存の母を引き取りたいはずはないですもん。

もう出発しなくちゃならない時間が迫っているJ・Dに、ママは「そばにいて」と言うんですよ。こらーーーーーっ!息子の将来がかかった面接があるって言ってるじゃん。

同じ母として、そこは怒りでした。

薬物依存になったのも、住むところがなくなったのも、誰が悪いのでもなく全部自分のせいです。

ばーちゃんからも「人のせいにばかりすんな」と怒られていたけど、きっとばーちゃんはそんな娘に育ててしまった自分をすごく攻めていただろうと思います。

家族って重い。そう思った事ありませんか??

すでに鑑賞した方と共有する感想

J・Dの郷里であるオハイオ州からイェール大学があるコネチカット州まで、600マイル以上(1,000キロ近く)、車だと9時間以上かかる距離らしい。

帰る途中で何かトラブルがあったら、面接に間に合わないかもしれないじゃん、とハラハラしちゃいましたけどね。

辛い帰郷を支えてくれたのが、恋人のウシャ。いいヤツにはいい女性がくっつくんだな、と思ったカップルでしたね。

実話を基にした作品だと言うことを知らずに観賞し始め、最初の牧歌的な雰囲気に、「面白いのかしら?」と若干退屈だと感じてもいたんだけど、途中から俄然興味が沸いた作品でした。

ロックなばーちゃんの言動に、目が離せなくなったのかもしれません。

全ての人がそうだとは言い切れないかもしれないけど、辛い環境にあっても信じて見守ってくれる人がいると、人は立ち直ることができるんです。

人は精神的な孤独には耐えられないですからね。

だけど、押しつけがましい「見守り感」は逆効果のようにも思うんですね。その匙加減が難しい。

ばーちゃんは、ロックだったからJ・Dに響いたような気がします。どうかしら??

え?ロックって、どうゆーことか?

うーん、激しくて熱いって感じでしょうかしらん。

なんせ、ばーちゃんは100回も見てセリフを覚えてしまうほど「ターミネーター」のファンだって言うじゃない。そんなばーちゃん、やっぱりロック。

ぐれた子どもが観たくなる作品じゃないけど、そーゆー子たちに見せたい作品かしらね。最後までしっかりと鑑賞すると、この映画のよさがじーんと沁みてきます。