SF

映画「ボーダー二つの世界」は予想を遥かに超えた衝撃作品だった!ネタバレ感想

アメリカの映画評論サイトで2019年9月27日時点、驚異の97%と評価されている、スウェーデンとデンマーク合作映画「ボーダー二つの世界」を鑑賞してきました。

全く前知識もなく、予告動画もチェックせず、なんとなく容姿にコンプレックスがある女性が、ひとりの男性と知り合って人生が変わっていく話しかな?と思って観に行ってみたら、ものすごい衝撃的な作品でした。

ある意味、コンプレックスを持った女性がひとりの男性との出会いで変わる、という部分はあるものの、そんな生易しい変化じゃないし、ヒューマンドラマかっ?サスペンスかっ?いやいや、SFだろ!と心が四方八方に持っていかれた感じ。

映画は予習なしに観るのも悪くない、とは思ったものの、あまりの衝撃にしばし呆然としたかも。

多少の気持ち悪さもあったりしましたが、この映画は人間に対する警告でもあるかもしれません。

それでは、「ボーダー二つの世界」の感想を綴ってみたいと思いますが、感想の後半は完全にネタバレしていますことをご了承くださいませね。


映画「ボーダー二つの世界」概要

原題:Grans R18+
製作年:2018年
製作国:スウェーデン・デンマーク
キャスト:エバ・メランデル、エーロ・ミロノフ
監督:アリ・アッバシ
原作:ヨン・アイビデ・リンドクビスト

2004年に発行された今作の原作者ヨン・アイビデ・リンドクビストによる『MORSE -モールス-』は、恋愛や社会的リアリズムを孕んだヴァンパイア・ホラーで、映画化された『ぼくのエリ 200歳の少女』は吸血鬼の物語。

ヨン・アイビデ・リンドクビストの作家としてのジャンルはホラー、ゴシック、スリラー。

今作は、ホラーでもスリラーでもないけど、原作者の作風にそうした傾向があることを非常に納得できる映画になっています。

ヘアメイク

主人公のティーナを演じたのは、スウェーデンの女優エバ・メランデル。本当はこんなに美しいのに、撮影前に4時間かけて分厚いシリコンマスクを装着するという特殊メイクで撮影に臨んでいたのだそう。

左の男性が、ティーナと空港で知り合い、離れに住むことになったヴォーレ役のエーロ・ミロノフ。

二人の特殊メイクを担当したのが、本作でスウェーデン映画協会よりゴールデン・ビートル賞の最優秀メイクアップ賞を受賞したヨーラン・ルンドストルムとパメラ・ゴールダマー。

この映画には、20名以上のメイクアップ担当者が関わっていて、2人の心身の作り込み等がどれだけ大変だったかをうかがい知ることができます。

映画を観るとわかるけど、特殊メイクを施しているのはふたりの顔だけではなく、身体にも及んでいて、すごい!の連続!

監督は、ふたりのメイクについては「ネアンデルタール人」からヒントを得たと語っています。

監督

イラン生まれのアリ・アッバシ。脚本も原作のヨン・アイビデ・リンドクビストと共に担当。

多忙な時間を生きる企業人が異国にひとり旅立ち、イランの人々との出会いを通して自分自身を取り戻す過程を描いた2002年に公開の日本映画「旅の途中で FARDA」に現地イラン人として出演。

2016年にはスウェーデンとデンマークの合作で、監督・脚本を手掛けた最初の長編作「Shelley」をベルリン国際映画祭のパノラマセクションでプレミア上映。

「Shelley」は、人里離れた別荘地に住んでいる、子どもができないカップルのルイーズとカスパーが、代理母を見つけてきて無事妊娠するが、子どもの誕生がパラノイアと恐怖に満ちていたというホラー映画。日本では未公開。

見るからにホラーな感じのポスターが怖い・・・

今作は、原作が短編だったことから、ティーナが自分の特殊能力で警察の捜査に協力するという、映画ならではの物語が盛り込まれています。

「ボーダー二つの世界」ネタバレ感想

ホラー映画を手掛けていた監督と、ホラージャンルの作家原作ってことで、ホラー映画じゃなかったけど、かなりな衝撃でございました!

感想の後半は、完全にネタバレしています。

ティーナが抱えているコンプレックスと特殊能力

主人公ティーナは、容姿が醜いというコンプレックスを抱えながらも、人の感情を嗅ぎ分けられる特殊能力を生かしてフェリー乗り場の税関に勤務しています。

人の後ろめたさ、罪悪感という感情をかぎ分け、違法なモノを持ち込む人を取り締まっていました。

家に帰ると3匹の犬を宝物のように大事にしている恋人のローランドもいるんだけど、施設にいるティーナの父親は、ローランドに騙されていないか?利用されていないか?と心配しているんですね。

確かに、ティーナの容姿から父親がそんな心配をするのも無理はないかな?と思うわけで、想像通りローランドには浮気相手がいる様子。

ティーナもそのことには気づいているものの、何も言わないんですね。そして、2人にはいわゆる男女の関係はない。それは、ティーナの身体的秘密によるものなんだけど、その秘密ってのもティーナの大きなコンプレックスになっていただろうし、びっくり仰天!な秘密だったんです。

謎の男ヴォーレとの出会いでティーナが変わっていく

勤務中、ティーナの嗅覚が反応して呼び止めた謎の男ヴォーレ。荷物を検査するも怪しいものは見つからなかったが、身体検査をした職員から、完全に見かけは男だったヴォーレの身体は女性だったことを知らされます。

ヴォーレに興味を持ったティーナは、自分の家の離れにヴォーレを住まわせます。

容姿が似たふたりは惹かれあい、ティーナは自分の身体の秘密をヴォーレに打ち明けるんですね。打ち明ける気持ちになったのは、身体検査をした職員から聞いたことがあったからでしょうね。

そうじゃなければ、とても言えることじゃないですもん。

そして二人は結ばれるんだけど、そこに至るまでの過程がかなりグロテスク。個人的にはそんな風に描く意図はどこにあるのか?全くわかりませんでしたが、共通点を見出したふたりが惹かれあうのは、非常に自然なこと。

ここまで観て、もしかするとこの映画はSFかも?と感じるんだけど、その根拠はティーナとヴォーレの身体的特徴。

見かけは人のようだけど・・・違うんです。

今まで自分の心身のコンプレックスを理解してくれる人は皆無だった人生から、君は醜くなんてない、と言い切ってくれる男に巡り合い、ティーナ自身のルーツもわかり、価値観も変わっていきます。

警察への協力

ある日、勤務中にスマホの中にメモリーカードを隠していた身なりのいい男をかぎ分けたティーナ。

男が隠していたメモリーカードには、児童ポルノ画像があったことから警察が捜査に乗り出しし、ティーナは特殊能力を生かし捜査に協力することになります。

ティーナの協力があり、幼児を誘拐していた夫婦を捕まえますが、その夫婦のバックにいた協力者がヴォーレでした。

ヴォーレが幼児誘拐に関わっていた動機は、人間世界に対する復讐。

完全ネタバレ感想

ヴォーレが犯罪にかかわっていた動機は、染色体が人とは違うことから、両親を実験材料にされ、施設で育った辛い過去にあります。人間が地球上の全てを当たり前に制覇している事実にとてつもなく腹を立てているわけです。

ヴォーレは「人間は地球上の全てを制覇している」と。

同居しているローランドを受け入れることができなかった自分の身体だったのに、同じ種族のヴォーレとは体験できただけでなく、初めて感じた強烈な快楽だったことがわかります。

人は自分以外の人と容姿や能力や立場や持っているモノ、様々なことを比べてしまいますよね。そして、心の中で無意識に優劣をつけていると思うんです。

女性として容姿に恵まずに生まれ、周りの人からも陰口をたたかれ、疎まれ、ヤジを飛ばされていた日々だったティーナは、ヴォーレと出会い、自分のルーツを知ることで初めて心身ともに開放されたはずです。

そうした事実は、ヴォーレに対する絶大なる信頼になってはいくものの、ヴォーレが人間に対する復讐心から犯罪に関わっていることは、許せない正義感もティーナは持ち合わせています。

だけど、人間は森を開発し、便利に世の中を変え、地球の資源を使って豊かになっています。ヴォーレのように、人間界に復讐する何者かがもしかして現れるかもしれませんよ、という警告なのでは?とも受け取れます。

まとめ

いやー、衝撃的でした。北欧映画ってハリウッド映画のような派手さはないけど、じっくりと物語を見せる結構良作が多く、今作もそんな映画のひとつだと思います。

暗くてじっとりとした湿り気はありつつ、物語の謎がひとつひとつ丁寧に解き明かされていくすっきり感はあるけど、SF・サスペンス・ラブストーリー・ヒューマンドラマ全部が織り込まれていながら、ジャンルを明確に語れないという不思議な作品でもあります。

核心には触れず、と思いつつ書いたつもりだったけど、ちょっとバレちゃったかしら?

でもね、ふたりの触れ合いのゾッとするような気持ち悪さと衝撃は、実際に観た人にしかわからないと思うのよ。

映画のタイトルである「ボーダー」は、北欧に伝わる森の妖精トロルと現実の世界との境界線、または人間の善悪の境界線を意味しているのかな。

その境界線は、自分の意思で超えられるものと、自分の意思ではどうにもならないものがあり、超えられない境界線があることを知るのは痛みも伴うけど、必ずその痛みを癒す方法があるよ、と言っているようにも感じます。

一貫して暗い表情だったティーナが、最後の最後の微笑み、その微笑みが幸せそうでもあり、ヴォーレの企みが広がるかもしれない不気味さも感じるかな。

ホラー映画じゃなかったけど、ビビりな私には強烈パンチな作品でした。