白人と黒人の幼馴染が繰り広げる友情と、その間にあるお互いに理解できない思い、地元オークランドへの愛やら、変わりゆく街への抵抗感やら、そんないろいろが詰まった映画「ブラインドスポッティング」を鑑賞してきました。
今作は、同じ高校で学んだ本当の友人であるダヴィード・ディグスとラファエル・カザルが、二人で書き上げた脚本で、主演も務めています。
映画の中に度々登場する、二人が地元のことや自分たちのことを韻を踏みつつつぶやくラップが、映画の内容を象徴しています。
人種差別や貧富の差、警察への不信感など、重いテーマで描かれているにも関わらず、作品自体は重くなりすぎず、適度な笑いとお茶目感たっぷりに仕上がっていて、個人的には
サイコーにお気に入りな映画 になりましたね。
それでは、映画のバックボーンや感想を綴ってみたいと思いますが、感想にはネタバレも含みますことをご了承くださいませね。
Contents
作品の概略
オークランドで生まれ育った親友同士の2人の青年の姿を通し、人種の違う者や貧富の差がある者が混在することによって起こる問題を描いたドラマ。
保護観察期間の残り3日間を無事に乗り切らなければならない黒人青年コリンと、幼なじみで問題児の白人青年マイルズ。
ある日、コリンは黒人男性が白人警官に追われ、背後から撃たれる場面を目撃する。
この事件をきっかけに、コリンとマイルズは互いのアイデンティティや急激に高級化していく地元の変化といった現実を突きつけられる。
あと3日を切り抜ければ晴れて自由の身となるコリンだったが、マイルズの予期せぬ行動がそのチャンスを脅かし、2人の間にあった見えない壁が浮き彫りになっていく。
舞台になっているオークランドってどんなところ?
人種差別を題材にした映画を観るときは、その舞台となる場所がどんなところなのか?という、予備知識があった方が映画をより楽しむことができます。
今作「ブラインドスポッティング」の舞台は、カリフォルニア州でサンフランシスコの対岸の8マイル東に位置する「オークランド」。
カリフォルニア州では、8番目に大きな都市になります。
アメリカでは、もっとも人種的に多様な都市でもあり、2012年に発表されたFBIの統計では、1000人当たりの暴力的な犯罪の率は16.8%で全米4位だそうです。
1940年代1950年代には、アフリカ系アメリカ人のビジネスとカルチャーが栄えたと同時に、差別的隔離と貧困に悩まされていました。
そして、1960年代には、黒人民族主義運動・黒人解放闘争を展開していたブラックパンサー党が結成された地でもあり、その歴史を受け継ぐ黒人のコミュニティが今でも存在しています。
現在では、高級化が進み新しいオークランドへと変貌し、ビーガン・フード・トラックや小洒落たアート・ギャラリーなどが増えて、今までの伝統や暮らしを脅かしているという背景もあります。
映画の中では、古い街を愛する地元民と新しいオークランドへ越してきた新しい住民の諍いも描いています。
二人の主役
主役を演じたダヴィード・ディグス(左)とラファエル・カザル(右)が、2人で脚本・主演を担当。
2人は、映画と同じようにオークランド、ベイエリアの高校で出会い、友達と共にフリースタイル・ラップをしながら育ったそうです。
同じ高校に通ってはいたものの、卒業後は別々の道に進んだダヴィード・ディグスとラファエル・カザルでしたが、二人が共に好きだったのが「舞台、詩、音楽」そして地元オークランドへの深い愛情でした。
ラッパーであるダヴィード・ディグスとナショナル・スラム・ポエトリー大会で2度優勝しているラファエル・カザルは、映画の中でも自作自演のラップを口ずさんでいます。
字幕の日本語ではなく、彼らのラップがそのまま英語で理解出来たら、もっと映画に対する理解も深まったかもしれないのに・・と、そこがちょっと残念でした。
でも、モーリー・ロバートソンさんが、オフィシャルサイトに寄せている感想には、
自分は英語ネイティブですが、日本語字幕を読み続けてやっと追いつけました。このしゃべりの早さ、学校ではけして学べません。悔しいぐらい、真似できない。「Keep it real」の尊さを学びました。
とありました。英語圏で英語で生活している人にしか追いつけないほどの英語らしいです。
で、ブラックパンサー党が生まれた1960年代、犯罪が多かった1970年代、そして大企業が進出して大きく変貌していったオークランドの姿を、二人は脚本に地元に対する思いを表現していったのだろうと感じます。
カザル曰く「過激な考えで育てられたからこそ、裕福な部外者たちの乱入には不快を感じる。特に、いまだに警察による黒人に対する暴力が続いているからなおさらだ。そういう状況の中このストーリーは展開していく。」(オフィシャルサイトより)
感想
感想その1 友達でしょ?
黒人コリンは、保護観察中。残り3日間で、無事に保護観察が開けます。
保護観察中は、門限もあるし、行かれる場所も限られているし、もちろん犯罪に関わったりしたら、刑務所に戻されてしまいます。
そんな状況であるにも関わらず、幼馴染のマイルズのやらかすことが、まああああ危なっかしいったらありゃしない。
一緒に乗っている車の中は、マリファナの煙でもうもうだし、銃の取引はするし、親友があと3日で保護観察が開けるってことがわかっているなら、もうちっと考えて上げようよ!と思うよね。
マイルズと一緒だと、きっとトラブルに巻き込まれるから、保護観察が終わるまで離れていた方がいいのになぁ・・・と感じるんだけど、二人は引っ越し作業員の相棒として同じトラックに乗り、いつでも行動を共にしています。
感想その2 抵抗していない黒人を撃った警官
ある日、帰宅途中の信号待ちで、コリンのトラックに黒人がぶつかってきたと思ったら、その黒人を追いかけてきた警官が、4発も発砲するのをコリンは目撃します。
えっ!ただ目撃しただけだから、コリンは何も悪くないよね?と、ちょっと焦ります。なんせ、あと3日ですから。
その時は、何事もなく帰宅することができたのだけど、撃った警官を目撃したことが後々、コリンに激情を呼び起こしてしまう出来事とつながっていきます。
そこ!かなりヤバいんです。
でもね、重いテーマを描きながらも、決して映画全体が重くなっていない今作は、非常に上手くコリンの激情を使って考えるべき現状を問題提起していました。
感想その3 決してニガーと言えないマイルズ
マイルズは、オークランドで生まれて育ち、常にコリンと行動を共にしています。そして、黒人の妻がいて、歯にはゴールドのかぶせモノをし、コリンに「ニガー」と呼ばせ、黒人としてのアイデンティティで生活しています。
でもね、マイルズは自分のことをニガーと呼ばせても、コリンに対しては、決して「ニガー」とは言わないんです。
そこにマイルズの真意があると思うんですね。
コリンが有罪になったのは、勤めていた店の客をぼこぼこにしちゃったからなんだけど、その喧嘩にマイルズも加勢していたいも関わらず、マイルズは罪に問われませんでした。
その結果には、歴然とした人種差別があるわけです。
感想その4 青汁を飲んでみる
2人が毎朝立ち寄るコンビニでは、マイルズは煙草を1本、コリンは10ドルもする青汁のスムージーを買うんです。
これこれ!コリンが手に持っているのが、青汁スムージー。
2人が務めている引っ越し会社の受付にいるのは、コリンの元カノ:ヴァル。確か、ヴァルは瞑想やヨガだったかな?が好きで、若干そのことをマイルズにバカにされたりもしているわけ。
ヴァルの設定や、コリンが毎朝、青汁スムージーを買うことが、現在のオークランドを匂わせていると感じます。
「まずいけど悪くない」この青汁に対する感想は、自分たちが育ったオークランドを愛してはいるけど、変わっていくオークランドも受け入れなくちゃな、という気持ちが込められているのかな、と感じました。
感想その5 理解なんてできないけど
黒人ではないし、人種差別がある世界で育っていないし、日本は警官が街中で銃をぶっ放すこともありません。
だから、アメリカの人種差別や銃社会に至った歴史を真に理解することはできません。でも、他人事だよね、アメリカの話しだしね、映画だしね、で終わってはいけないと私は思っています。
脚本を書き、主役を務め、二人が育った街で作った映画は、分断の中でどう生きていくべきか、自分の主張だけでなく、相手を思い理解しようと努める気持ち、それを持ち続けるべきなんじゃないか、と語りかけているようです。
タイトルになっている「ブラインドスポッティング」は「盲点」を意味し、コリンの元カノ:ヴァルが勉強している心理学の問題をコリンに説明する際、この言葉が使われていました。
作品の中ではさり気なく使われていただけでしたが、マイルズとコリンの友情の中にもお互いに気づかなかった「盲点」があったし、自分の中にも気づきたくなかった「盲点」をそれぞれが抱えていました。
気づけないから「盲点」なんだけど、何かきっかけがあればその「盲点」に気づくこともできるんだ、ということを学んだ気がします。
そして、この映画!ラストがまたいいんだ!
まとめ
本当に素晴らしい映画でした。こういう作品に出合えると、ものすごく1日が幸せになります。
監督のカルロス・ロペス・エストラーダは、1988年生まれ。まだ、30歳をわずかにすぎたばかりです。
数々のアーティストのミュージックビデオを監督してきて、24歳の時にメキシカン・ポップ・バンドのJesse & Joyのミュージックビデオをストップモーションで撮影し、ラテン・グラミー賞を受賞した経歴があります。
今作が長編映画のデビューだそうですが、今後の活躍に大いに期待しています。
「ブラインドスポッティング」は、上映館が少なく非常に残念。こうした作品は、もっと多くの人に見てもらいたいのになぁ・・・
機会があったら、是非観てね。